飽きるまで
そのフレーズが出た瞬間、頭に浮かべたのは日本の映画「めがね」の主人公・タエコのセリフであった。 都会の生活に嫌気が差し、とある日本の南の島に旅にきた。癒しをもとめてやってきたものの、都会とはあまりにかけ離れた自然体すぎる島の人たちのペースに最初はついていけない。しかし徐々に島の空気に打ちと溶けてきたタエコを見た元・島移住者のハルナは少し嫉妬しながらこう聞く。「タエコさんはいつになったら帰るんですか?」するとタエコは少し考えてこう答えた。「飽きるまで。」
よもやプノンペンに5日も滞在するとは思っていませんでした。プノンペンにはベトナムのビザを取るために2、3日の滞在で十分だと。在住の方には大変失礼な話なのですが、シェムリアップで出会った旅人たちからは、治安に関してあまり良い噂を聞かなかったのです。街も表通りから入れば怪しい雰囲気で少し怖い、と。そんなことを聞いていたので身構えてこの街に入ったのですが、話に聞いていたよりは公園やメコン川沿いなど、とても綺麗に整備されている。表通りから一歩入れば活気あふれる市場や屋台が並び、フランス統治下時代の面影が残る街並みの中をトゥクトゥク、シクロ(自転車タクシー)と言った東南アジアのおなじみの「足」が縫うようにかけている。高層ビルを眺める下には土着的な庶民的街並みが混在するプノンペンという街に魅了されるのはそう時間のかかることではなかった。なんといっても僕の注目点であるカフェに関しては、地元のおじさま方が集まる昔ながらの店があれば、最近増えているという欧米人やカンボジアの若者達が集まるオシャレな店まで選択肢が幅広くてどこに入ろうか迷ってしまう。カフェに関してはまた後でゆっくり述べよう。だからといって警戒を怠るわけにはいかない。裏通りには入らないようにしているし、外国人とまるわかりの自信の無い態度で右往左往しないこと、夜はあまり出歩かないこと、カメラも常にカバンに入れて露出しないようにしている。でもこれって他の国や街でだって同じこと。欧米人はけっこうカメラを首からぶら下げて歩いている人がいるけど大丈夫なんかな?
さて、カンボジアのコーヒー文化についてですが、シェムリアップやプノンペンなどに都市にはエスプレッソマシンを備えた先進的なカフェが多くみられますが、昔ながらのこの国の「喫茶店」といえば朝の一杯から午後の白熱のムエタイの試合のテレビ観戦など日本のそれのようにおじさま方で席巻しております。そこで飲まれるコーヒーとはカップの底に甘い練乳を敷き、上から濃いめに淹れたコーヒーを流し込み白と黒が2層になったコーヒーが一般的で、下の練乳をマドラーやスプーンで少しずつ溶かしながら飲んで、最後練乳が余ったらポットに入ってあるクメール茶を注いで混ぜれば「なんちゃってミルクティー」ができ2度楽しめるというわけです。同じような飲み方をするベトナムやカンボジアで作られるコーヒー豆は「ロブスタ種」という品種で、これは日本でよく飲まれる所謂「ブラックコーヒー」にはあまり適さない品種でして、砂糖やミルクがうまくマッチする模様。自転車をたくさんこいで見つけたコーヒー屋さんでアイスコーヒーを流し込む瞬間の幸せたるやありません。
シェムリアップにもいくつか見られましたが、プノンペンではエスプレッソマシンを備えたオシャレなカフェが本当にたくさんあります。泊まっていた宿から30mほど歩いた場所に僕のお気に入りのカフェ「BROWN COFFEE AND BAKERY」があり、滞在中は毎日のように通いました。お客さんは観光客やカンボジアの現地人も多く、みな自分のパソコンを出してネットや仕事に利用しているので僕も気兼ねなくここでホームページの更新のため長居させていただきました。のどかな農村風景ばかり見てきたカンボジアにいるとは思えないキレイでオシャレな空間にパソコンから目を離す度にうっとりと居心地の良さを感じていました。
朝起きてその辺の屋台に朝飯を食いにいって、午前中は宿でパソコンを触ったり洗濯をしたりして、またその辺の食堂とかで昼飯を食べたらカフェでコーヒーを飲んだり自転車に乗ってその辺の写真を撮りに行ったり、あまり暗くならないうちにまたその辺の屋台とか食堂で夕飯食べて・・・という食って飲んでばっかりの生活を4日ほど続けていました、我ながらなんて自堕落な過ごし方かと。でも勤勉に自転車をこぐことがエライのではない。というか旅なんてはじめから自己満足なのだからせっかく時間あることだし、満足するまで好きな場所にいてもいいのだ。それこそ「飽きるまで」ね。
前々回の日記「激走!国道6号線とカンボジアの七不思議」に写真など追加しましたので、一度ご覧になられた方もまだの方も、のぞいていただけるとありがたいです。ちなみにベトナムに入りました、そのあたりのレポートはまた次回に。