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Road to the Dalat Part2

4日目の朝、これまではペダルをこいでいる時のみ足に痛みを感じていたが、朝少し歩いた時にさえ違和感を覚えたのだ。おまけに外は進行方向に向かって向かい風、追い打ちをかけるように周りには山がそびえていた。これはいよいよまずいんじゃないか・・・。しかしこの何もない田舎町で日がなすることもないので「とりあえず進んでみる」以外の選択肢も思いつかなかった。走り出すと予想通り本格的な峠が立ちはだかったのだ。しかし本当に不思議なことなのだが、峠を登っている最中、アキレス腱が痛み出すことはなく、それ以降も痛みはダラットまでのゴールまでほとんどあらわれることがなかったのである。薬が効いたのか、アキレス腱を無駄に伸縮しないように気をつけながら走っていたのが功を奏したのかは分からない。歯をくいしばって、何度も小休止をいれながら峠をなんとか攻略。それを越えた際に見つけたハンモックカフェに立ち寄る。「峠の茶屋」とはまさにこのことである。コーヒーではなく、最近ハマっている「ヌォック・ミーア」を頼む。これはさとうきびの生絞りジュースである。専用の圧搾機にさとうきびをいれると白濁した液体がジュワーっとしみだしてくるのが見える。絞られた液体は氷入りの透明のグラスに注がれて、ストローとともに提供される。ストローで氷をさくさく混ぜながらすすると、単なる砂糖水とは違う、なんというか滋味深くて素朴な味わいの甘みが胃の中にギューっと染み込んでくる。

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峠を越えるとまた周りの雰囲気が変わってきた。林や山は一旦姿を隠し、町を越えたら茶畑などがあらわれはじめた。そして僕はついに「出会う」こととなる。ベトナムに来たら、ダラットに行くならきっと「出会う」ことが出来るんじゃないかと待ち望んでいたものそれは「コーヒーの木」である。最初に見つけたのは茶畑の向こうに、果樹園のごとくあきらかに「栽培」してある木々の群れを見つけた。その木の葉を見ると写真で見たコーヒーの木の葉にそっくりだった。さらに枯れてはいるが花の咲いた跡、失礼と思いつつ黒くなった実を一つちぎって中身をもいでみると、そこには2つ対になった確かにまさしくコーヒー豆のような種子が入っているのだった。もうそれだけで僕はとても感動したのだが、まだそれだけでは終わらなかった。その後また違う場所でコーヒーの木を見つけるのだけど、今度はなんと本物の白い花を咲かしているのだ!花を近づけるとクチナシに似た甘い香りが鼻孔を優しくかすめた。さらにその翌日、現地の人の軒先で何やら赤い実が天日干しされているのを発見して近づいて家の人に聞いてみる。 「もしかしてこれコーヒーの実?」 「そうだよ。」と笑って答えてくれた。 コーヒー好きとして、コーヒーの栽培の生産されている所を見れたのは本当に念願であり、感動的なことでした。コーヒーの主な収穫期は雨季であり、乾季である今、花や実を見ることができるとは思ってみなかった。文献だけでは分からないことがあるもんだ、まさに百聞一見にしかずである。

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この後、面白いくらい景色はどんどん良くなっていく。まるで北海道の美瑛のようななだらかな丘陵地帯で見た夕暮れは神々しくて、本当に言葉を失うほどであった。この中でキャンプをしたらなんて素敵だろうと一度は初めての海外キャンプを企てたのだが、イイ場所が見つからなかったのと、いまいちふんぎりがつかなかったのがあり、見つけた安宿に泊まることになった。夜は宿の中も冷え込んでいた、もうすでにここは高原地帯なのだ。

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5日目、ダラットまで残り80km。平地なら1日で目指せる距離だが、足の痛みがいつ再発するか分からないし、今日も上り坂が予想されるのでいけるところまで頑張ることにする。 ところでタイやカンボジアにいた時に比べて、ベトナム語は多少僕も勉強しようとしている。ベトナム語で値段を言われても聞き取れるようになったし、「これちょーだい」とか「僕は日本人だ」とかごくごく簡単なフレーズもちょっとずつ身に着け始めていた。英語はあまりベトナム人は得意でないようだ、まあそれは僕も同じですけどね。向こうは遠慮なくベトナム語で話しかけてくるのを、当然何言ってるのか分からないんだけど、根気よく耳を傾けていれば時々は「こういうことを言ってるのか」って理解することもあるし、こっちも知ってるベトナム語や英語や時にはもう日本語もまぜこぜで身振り手振り言うことで伝わる時もある(もちろん伝わらない時も多々あるけど)。旅に出てから自分の英語力の無さに後悔して、少しずつ改善できるように努力もはじめているのだが、いざコミニケーションを取るために必要なことの一つは「積極的に伝えようとすること」であると思う。黙っていては当然ながら何も相手には伝わらないし、そのうち向こうも「なんだコイツ」ってなるけど、一歩勇気を出して、間違っていたとしても必至さが伴っていれば、向こうは興味を示してくれる、と最近思ったりしています。そんなこんな深い会話のやり取りはできないけど、この4日目以降からなんちゃってながら現地の人たちとコミニケーションをとる機会が多くなった。

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順調に距離を減らしてはきたが、今日も向かい風と細かいアップダウンにより相変わらずのスローペース。そしてダラットまで残り15kmとなったところで僕は決断を迫aられることになる。今日はもうゴールする気満々でここまで頑張ってきたけど、今からの道のりはまた大きな峠があると思うのだ。時刻は午後4時半、峠で日が暮れるリスクを考えるといつもならここでやめるのだけど、ある意味ではもうその山の向こうに待ち望んだゴールがある。僕はまるで人参を目の前にブラ下げられた馬の気分であった。しかし、その時佇んでいた場所というのもなかなかに景色のキレイな場所であった、両脇を山に挟まれた山里はまるで京都の大原のようだった。夕暮れの峠アタックのリスクもそうだけど、足早にここを通り過ぎるのももったいないのでは・・・。するとある考えが、ついに、キャンプを本当にやってみるか。僕は早速テントの張れそうな場所を探した。しかしそう簡単には見つからなかった。農作業終わりの現地の人に張れそうな場所はない?その畑の脇に張ってもいい?庭先とかに張らせてもらえない?色々聞いてみたけど3回とも断られてしまった。宿の看板を2件見つけることが出来たけど、営業してるのか分からなかったり、場所自体見つけることが出来なかったり。世の中そう甘くないな・・・。いや、途方に暮れている場合ではないのだ。もっと単純に、夜を明かすだけの話だ。明日の朝にはたったの15kmでゴールに着けるのだ。僕はさっき見つけた、ここならテントを張れるかも?という場所へ向かった。そこは畑の中の道の行き止まりであった。民家からも離れているし、さすがに夜ここに誰かくることはないだろう、たぶん。約1年ぶりにテントを張ってみる。空を見上げる。あれは天の川というものだろうか?少し蒼みを帯びた闇の空に無数の星が散らばっていた。しばらくはどこかの飼い犬の遠吠えが響いていたが、やがてそれも静かになった。朝方はセーターを引っ張り出すほどに冷え込み、テントの外側は夜露でびっしょり濡れているようであった。

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6日目の朝、無事に朝を迎えることが出来たことに手をあわせて感謝する。朝早くから開いていた屋台でバインミー(フランスパンのサンドイッチ)を買ってほおばる。一緒にいただいた温かいお茶のカップをかじかむ手でギュっと支えながらすすると「有難い」という言葉が自然と口をついて出てきた。 話のネタはもうこれで十分と思っていたのだが、まだプチ波乱は続くのであった。気分よく走り出し歌でも歌って走っていると、自転車は突如異音とともに強制的に急ブレーキで停まったのだ。きっと前輪になにか詰まってしまったのだろう、見やればなんど前輪の泥除けがありもしない方向にグニャッと曲がっているではないか!どうやらカバンのヒモがはずれて泥除けと一緒にタイヤの回転に巻き込まれた模様。曲がった泥除けを外そうとすると次の瞬間ボキッと折れてしまった。思わず笑いがこみ上げた、もうネタは昨日のキャンプだけで十分だっていうのに。幸い応急処置的にテープで固定して、15kmの走りにはとかく問題はないようである。ちゃんとした修理はダラットに着いてからやることにしよう。 しばらくは穏やかな山里の景色が続いたが、なんと松林が現れだしたのだ。まるで奈良の吉野あたりを走っている気分になったけど、あらためて日本は美しい国やでなあとしみじみと感じていた。

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やがて最後の峠にさしかかる。なかなかの勾配で、やはりここを昨日夕暮れ時に突入するのは危険だった。そのことを抜きにしてもこの峠の美しい景色を見過ごすのは本当にもったいないと思えるくらいの良い景色が見られた。ここまで何十台もの観光バスに抜かれていったけど、しんどい思いはしても僕はやはり自転車の旅で良かったと思う。うつりゆく土地の空気を感じるには自転車のスピードがちょうど良いのである。 やがて僕はダラットに到着した。花と緑の美しいダラットの街は、ピンクの桜の花を咲かせて僕を待っていてくれた。


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