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さて、新たな試練だ。

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僕が東南アジアであまり野宿をしない理由はこうだ。 まず物価の安さはみなさんにも想像が付くかと思うが、飯代は3食で1000円くらい、宿代も安ければ500円くらいで収まることさえある。宿に泊まればシャワーで体はキレイになり、シャワー室で洗濯も出来る、なにより安眠できて疲れの取れ方も違う。もう一つの理由は蚊である。東南アジアにはマラリアやデング熱といった病気を媒介する蚊がいるので外で寝ることに抵抗があるのだ。

ということでアジアでそこまで頑張ってテント泊したり自炊したりすることもないのではないか?もちろんヨーロッパではそんなこと言ってられないので、むこうでは毎日のようにキャンプしなければいけないだろう。そう自分に言い聞かせながらもやはりどこか自分の頭の中では、宿に泊まってばかりいることに「逃げ」を感じていた。しかし今回が最初の海外旅行である、しかも自転車で。最初タイを走っていた時は、アジア編さへも満足に走ることが出来ず日本へ逃げ帰ってしまうのではないかと思うほど自信もなかったが、すでに走行は2000kmを越え(休んでばかりだけど)今はアジア編のゴール地も決まってそこにひた走っている状況だ。よくここまでやれたもんだ、それで十分ではないか?だから無理する必要などないのだ。今回アジアで出会ったサイクリストも野宿をする人がほとんどいなかった。

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そうやって言い訳を作りながらも僕は中部の世界遺産の街・ホイアンに向かうまでには1回は野宿をしようと考えていた。その機会はやってきた。とある日の夕方、探せば宿がありそうな雰囲気はあったが、走っている道の左側には田園風景が広がっており、その中にポツン、ポツンと木が数本立つ場所があり、その下は水田ではなく陸地になっているようだった。野宿はアジアでは避けたいと思いつつも、景色のイイ所ならやってみたいという気もあり、僕はそこで1泊することにした。

しかし着いてみて思ったのは周りは水田、これって蚊の宝庫じゃないか?でもこの前ダラットでした時も水辺の近くであったが蚊はいなかった。今は蚊はいない、大丈夫じゃないか?予想は外れた。日が暮れるとわらわらと蚊が出てきた。ダラットで蚊がいなかったのは標高が高く気温が低かったからだろう。どうする?・・・ああーまどろっこしい!蚊取り線香たいてなんとかするんじゃい!

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さて、この旅初めての自炊である。日本を周った時はアウトドア用のガスストーブを使っていたが、燃料の入手のしやすさ、さらに世界自転車旅といえばガソリンストーブだという頭があったので僕もそれにした。しかし僕はこんな旅をしながら非常に憶病な性格である。ガソリンという燃料を使うことには恐怖感があった。カバンから取り出すと燃料ボトルが小さくへこんでいた。自転車を時々こかすのでたぶんその時のことだろう。しかし大丈夫だろうか・・・。説明書を読みながら慣れない手つきで点火する。すると炎がボワッとした音と共に縦に長く立ち上がり、メラメラ燃えたあとだんだん落ち着いて調理が出来る状態までになった。ガスやアルコールとはくらべものにならないくらいの火力の強さに僕はビックリした。水を入れたコッヘルをゴトクに置く・・・があせって1回地面にこぼした。な、なにをやっとる!気を取り直してもう一度やり直し。湯が沸くのを待つ間に他の準備を・・・と思っていると、見ればもうゴボゴボとすごい勢いで沸騰している。なんちゅー炎の勢いだ・・・僕はさらにビビッた。ガソリンストーブは弱火が苦手で火力調節のダイヤルを回しても強火には変わりなかった。いそいで乾燥の米麺を入れる。具もないとさみしいだろうと買っていた、ミックス干し野菜も入れて、コンソメと塩で適当に味付けした。しかし麺がやわらかくなるまでに水が煮詰まってきた。僕は水を足す。焦っていたのだろう、なぜか塩をもう一度足した。

調理がひとしきり終わり、テントの中で食べようとジッパーを開けようとした瞬間、横に見えたものに僕はギョッとする。ウネウネと地を這う1.5mほどはありそうな爬虫類だった。 「ヘビやん!(ヘビやん!ヘビやん!・・・)」 ↑()内は脳内でこだまする声

これはもしかして移動フラグか?しかしもうテントも張った。飯も作った。まあジッパーを閉めておけばさすがに大丈夫だろう。というか周りが水田だからヘビもいて当然、ヨーロッパだってヘビはいるだろうし、とりあえず近づいてこないことと、毒ヘビじゃないことを祈ろう・・・。 僕はテントのジッパーをぬかりなくしっかり締めて、調理した鍋とともに腰を落ち着けた、ふうお疲れ様でした。さて、いただくとするか、しかし食う前に言うのもなんだがあまり美味そうには見えない。麺をすする。おっ?これは旨いかも!・・・と思ったのは一口目だけであった。あきらかに塩が入りすぎていた。あの2投目が余計やった・・・。しかも熱い、アツアツだ。テントの中も暑かった。まるでサウナで鍋をつついているようだ、それは大げさだが僕はダラダラと汗を流しながらそれを口に運ぶ。さらに一緒に入れた干し野菜がもう食うに耐えない感じだった。干し野菜が悪いのではない、調理法が悪いのだ。僕は考えた。川に食ってもらうか・・・(川とは近くの用水路である。)僕はヘビがいないかキョロキョロ見渡した後、コッヘルの取ってをつかんだまま、アンダースロー投法で投げ込み、手をあわせてごめんなさいと謝った。

ああ、腹が減った。しかし作りなおす気力もない。そういやお菓子のチョコパイがまだカバンの中にあったはず。「命のチョコパイ」だと思った、なんて安定した美味しさだろう。しかしそれで腹が満足するわけもなかった。まだ俺にはカップ麺がある。やはり湯を沸かす気力はなかった。僕は感想麺に粉末スープを振り掛け、カップをシャカシャカ振った後、それを手づかみでワシャワシャと食べる、なに、塊のベビースターラーメンのようなものだ。NHKかなんかの番組で野生動物を撮影した「ワイルドライフ」という番組があった気がするが、今の自分も客観的に見ればこれもある意味「ワイルドライフやなあ」と思って一人でテントの中ケタケタ笑った。

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全てを片付けて横になる。これは今後自炊が大きな課題やなあ。僕は元々飲食店で働いていたこともあるし、料理も好きで味付けセンスもトンチンカンではない。しかし調味料や食材を限られた量しか運べない自転車旅において、特にヨーロッパでは毎日自炊しなければいけないこともあるだろう。いかに限られた条件の中で美味しい食事を作ることが出来るか、よく考えなければいけない。この時は不安で仕方がなかったが、今は少し楽しみにはなっている。あと、ガソリンストーブだ。あの火力の強さは便利であるとともにやはり恐怖心はぬぐえない。いっそアルコールストーブにしたらどうだろう?システムもかなり軽くなるし扱いがとてもシンプルだ。火力は相当落ちてしまうけど。しかしこの入ってるガソリンとても使いきれないな、飛行機乗る時にはスッカラカンにしておかないといけないのにどうしようか。

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そんなことがあったものの、この日は朝までグッスリと寝ることができた。海外での野宿自体に対するハードルは少し乗り越えたように思う。旅を進めているとあらゆる「壁」が僕の前に立ちはだかる。今回の壁は「自炊」にあるようだった。次はどんな壁があるのだろう。出来れば僕はラクに旅が出来ればそれにこしたことはないのですが・・・。

朝起きるとあたりは幻想的な靄に包まれていた。無事に夜が明けたことに手を天にかざした後、僕は今日も新しい出発のためにゆっくりと動き始めたのだった。


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