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ベトナムは今日もイイ天気

僕はその日から少し思考の坩堝に入ってしまったようだ。くだらないことは分かっている、でも頭の中で勝手に思考がグルグルと回りだすのであった。

ニャチャンを出て僕は中部の街・ホイアンを目指していた。ニャチャンからホイアンまでは500km離れている。大阪から東京までの距離も確か同じくらいだったはず。前半の250km、クイニョンという街まではペースも良く3日間でたどり着いた。この間にはいくつか登り下りがあって暑さと共に苦労したが、海沿いの道がは景色も良好で、また人との出会いにも恵まれていた。クイニョンで1日休んだ後、残りの250km走破に向けて走り出した。苦難はそれから始まった、それを機に今まで水面下で眠っていたものが良くないかたちで表面に出てきだしたのである。

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クイニョンを出発して1日目の前半こそはペースも良く快調に走れていた。しかしその日の後半から、今に始まったことではないのだが、工事中での未舗装路が多かったことや路肩の荒れ加減に走行は気が付けばスムーズさを失くしていた。さらに、今日はやたらと交通量が多い。道路は狭いのに大型車がどんどん対向車線を追い越しのために侵入してくるのだ。さすがに路肩にまで来ることはないのだけど、向かいから迫られるたびに脅威を感じる。交通量が多ければクラクションの量も増える。もともとベトナム人はクラクションを鳴らすことに抵抗は持ってなさそうで、「通るぞ」という意思表示で積極的に鳴らしているようだ。今までは聞き流していたが、ここまで多いとけたたましく横で鳴らされる度に僕は眉間にしわを寄せるようになっていた。さらに自転車とバイクの逆走もこれまでになく多い。これらは今まで気にしていなかった、諦めていたことだったのだが、こうも多く見かけるようになると、その日の夕暮れには精神的に疲弊している自分に気が付いた。次の日は走り出しから、昨日にも増してみなさんの運転のワイルドさは増して僕はいい加減にイライラが募っていた。 イライラすると、これまで笑って受け流してきた「文化の違い」までも不満として表面化するようになった。

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前回田舎の飲食店のオバチャンの寝起きの対応が悪いことがあると書いたけど、この日もカフェで休憩しようと入ったらやはり奥の間で寝ていて、起こすとのそーっと起きた後、ペットボトルのジュースを指し示したことにはさすがに「え?」と思ってしまった。その店は看板にコーヒー販売のメーカーを大々的に掲げているにも関わらず、コーヒーさえも入れるのが面倒だっていうのか?

一番悩みのドツボにはまったことといえば、毎日の食事への不満だった。ベトナム料理は種類も多く、美味しいと思う。しかし種類が多いのは都会や観光地で、田舎に行けば一人旅行者が入れる店の食べ物といえば「バインミー(フランスパンのサンドイッチ)」「コム(ご飯におかずがのったもの)」「フォー(味の種類・呼称は異なるが総じてスープ仕立ての米麺料理)」ほとんどこの3種類で、小さなお店は「コム屋」ならコムしかないし、フォーも、バインミーも然りである。これが美味しければ種類が少なかろうと問題がないのだが、店によって、この味付け、このご飯の炊き方は日本人には合わなかったり、またフォーもダシがぬるかったりダシがやはり日本人好みでなかったりということもある。本当は食べれるだけで有難いのでこんなことを言うのは贅沢なのは分かっている、でも選択肢が少ない中で毎日一喜一憂する中で僕は知らず知らずのうちにストレスをためていたようだ。ベトナム人はあまり他国の食文化には興味がないのか、だいたいどこも似たような味付けで他国料理の店など観光地以外で見かけることはない。多様な食文化に囲まれた日本人である僕が言うのがわがまま以外の何物でもないことも承知だけど、バインミーひとつだって、もっと味付けや具材を変えたら美味しいかもしれないのにとか、ベトナムコーヒーだって、砂糖や練乳の甘いやつだけでなく、抽出液にアレンジを加えたり抽出方法を変えたりしたらバリエーションも増えてカフェに行く楽しみがもっと増えるのにねーとか。カフェだって飲み物だけじゃなくて、ちょこっと食べれるパンの類とかケーキとかあったらいいのに、どこもかしこも扱っているのは同じ飲み物ばかりである。いや、頼み方が分かってないだけで実は色んなメニューもあるのかもしれないので決めつけも良くない。ここまでくると「もうお前海外旅行するなよ。」と至極簡単でかつ究極のツッコミを入れられてもおかしくないのも承知で、道路状況がマシになったクイニョンからの4日目の朝にまでそんなことが頭の中をずーーっと壊れた回転木馬のごとくグルグルと回り続けていた。これまでずっと異文化を寛容に受け入れてきたつもりだったけど、ここにきて許容量もいったん満タンまで来たのかもしれない。ベトナムには特に長くいてるからマンネリ化してきたこともあろう。長くいると当初の刺激も薄れて、色んなことも見えてくるものだ。かといってネガティブな時はイイ風が入ってこないこともなんとなく知っている。ここ最近人とのいい出会いもないし、話しかけてくる人への対応も少し面倒くさがっていたようにも思う。イイ写真も最近とれていない。流れを、風向きを変えるんだ・・・。

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そんなクイニョンからの4日目のはじまりだったから、走るペースは悪くないのにメーターの距離の数値はいっこうに上がらないように思えた。10kmちょっと走っただけで僕は国道沿いのカフェに入った。いつものように「カフェ・スア・ダー」を頼む。席にいると、店のオジサンが僕の前に座り、何か話しかけてくる。ベトナム語なので会話が弾むこともないのだけど、僕は最近にしては、少しだけ積極的に話が伝わるように会話をしようとした。オジサンもうん、うんと理解してくれようとする。そんなやり取りをしているうちに、この2、3日頭の中にかかっていたモヤが少しずつ取れていくような気がした。カメラを取り出す機会も気力も少なくなっていた僕が、このオジサンをちょっと撮ってみたいという気がしてきた。一眼レフを出すまでには至らなかったが、僕は腰元に下げてある袋からGRを取り出して1枚撮らせていただいた。しばらくしてようやくもう一度走り出す気になった。オジサンに挨拶すると僕の手をがっしりと握りしめてくれた。 それから走り出すと、僕の頭の中の空は晴天のように澄み切っていた。今朝までモヤモヤしていたのが嘘のようだった。風向きは変わった。僕はいつものように旅を進めることが出来ることのありがたさを、喜びを再び感じることが出来るようになっていた。写真がもっと撮りたい、もっとたくさんのことに挑戦したい。ポジティブな思想が次から次へと頭の中を駆けていく。一人で行く自転車旅、色んなことを考える。答えが出ない時もあれば、フとしたことがきっかけで流れが変わることもある。きっとこれからも僕は悩むことだろう、悩むのもまた旅、一人旅はいつだって自分自身と対話し続けるものなのだろう。

僕はホイアンの街にたどり着いた。ニャチャンを出て8日が経っていた。

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