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探し物が見つからない。

3カ月東南アジアを旅して、初めての雨だった。

フエという町にいる。僕はこの町に来てからどうにも調子が良くない。調子というのは体調のことではなく、思い通りにならないというか、そう、探し物が見つからないのだ。

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その一番の原因は道に迷うことである。僕は土地勘も方向感覚もトンチではないはずなのだが、ここに来てからはどうしてか迷ってばかりいる。中心部は斜めの道が多く、すぐに方向感覚を失ってしまう。宿を出たものの目的地を見つけることが出来ず、あげくの果てに宿に帰る道さえ分からなくなることが幾度とあった。そう言いながらもフエで宿泊している宿は相部屋で3ドルという格安にかかわらず、清潔・快適でスタッフさん達のホスピタリティーも素晴らしく、またいつものように何もしていないのに滞在は5日に伸びてしまった。

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滞在4日目、道に迷ってばかりでモヤモヤしていたけど、やはりこの町ともう少し向き合ってみたい。午後から僕は自転車を走らせた。この日は珍しく曇天の空模様だった。今、東南アジアは乾季にあたるが、それはもののみごとにまだ3カ月間一度も雨が降らず、曇り空さえも今回フエに着いて初めてかもしれない。曇り空の日に町に繰り出して気付いたことがある。「光の当たり方」がいつもと違うのである。青空の時には光の陰影がハッキリと出るが、曇りの日は光がまんべんなく当たるので、全体の光量は暗いが、物の一つ一つの色の彩度は青空の日と比べて色濃く見えるようだ。この時ベトナム人達の居住区を周っていたので、物と人がゴチャゴチャとした混沌とした世界だっただけにより顕著に感じられたのだろう。フエに来てほとんど写真を撮っていなかったが、やっとムラムラと撮りたいという気持ちが沸いてきたのである。

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僕はこの旅に出て人の写真を数多く撮るようになった。日本一周の時は風景がほとんどだったし、撮りたくても遠慮する節があったが後に後悔をした。だから今回の旅で一番力を入れたいのは人の写る写真なのである。

以前は一声かけるのにいちいちドキドキしていたが、今回は自分でも意外だが自然な成り行きで撮らせていただくことが多い。断られることも少ない。だいたいの場合、カメラを掲げてニコッと笑って「撮ってもいい?」って口で言わずとも目を見て訴えかけたらほとんどの場合OKをもらえる。「あなたを撮りたい。という意思を伝える。」これは旅先で知り合った写真家・三井昌志さんがホームページでおっしゃっていたことだ。 一声かけるのに少し勇気がいったり躊躇することもある。しかしそんな時は、写真家・ハービー山口さんが若いころ、イングランドの地下鉄で大物ロックスターと同じ電車に居合わせた時に言われたセリフを思い出す。 「撮りたいものはどんどん撮れ。」 山口さんの著作に書かれたそのエピソードのその言葉が僕を後押ししてくれることがある。もちろん自分に負けて諦めてしまうことも多々ありますが。 人の写真は面白くまた難しい。風景のようにじっくりと向き合えない。一期一会の出会いならばなおさら構図などを一瞬で考える。コミニュケーションの取り方によっては相手の表情を変えることも出来るかもしれない。今までポートレートに限らずのことだが、光の向きなどを意識することはあまりなかったのですが、最近は光の捉え方も少しずつ意識しだすようになっているように思う。漫然と10年近く写真を撮ってきたけど、まだ僕の写真は進化できるのではないか?そんなかすかな手応えを、この日の曇り空とフエの町が僕にそっと教えてくれた気がする。やっとこの町に少しだけ自分を溶け込ますことが出来た気がしたのだ。

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余談ではあるが、その夜初めてこの旅先で雨が降ったのだ。乾季とは言えここまで降らないとは、それとも僕が強烈な晴れ男なのか。


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