僕とベトナムさんのラストラン
2014年12月15日バンコクから始まった自転車旅の東南アジア編。そのゴール地点と定めたベトナムの首都・ハノイにとうとうたどり着こうとしていた。ラストランの様子と、北部走行の中で気付いた小ネタをいくつかはさみながらご紹介したい。
・洗濯物が乾かない 3カ月東南アジアにいて、それまで日中雨が降った日は1日も無い、曇りさえもない毎日青空の下で自転車をこいでいた。乾季とは聞いていたがこれほど降らないとは思わなかった。しかし状況が変わったのはベトナム・ダナンのハイヴァン峠を越えてからで、この峠を越えると北と南で気候が変わると聞いていたが、フエに着いたとたん初めての曇り空を体験し、あげくついに雨が降った。フエを出てからも晴れても湿度が高く、空もどこかもんやりとしている。困るのが洗濯物がなかなか乾かないのだ。いつも宿のシャワールームで洗濯して部屋干しし、乾ききらなかったらカバンをしばる荷台ロープに挟んでおけばカラッと乾いてくれるのだが、フエ以降はいつまでも洗濯物がしっとりしたままなのである。そしてハノイに近づくにつれ天気も悪くなり、ハノイまでの3、4日は久しくレインコートが活躍したのであった。こうなるともう乾かすどころでなく、ビニール袋に入った洗濯物たちはどんどん雑菌を増やしているのかと思うと気持ち悪かった。
おまけにベトナムの道は路肩にも砂、土がたまっているところが多く、雨でそれは泥と化し、ちょっと走れば自転車とカバンは泥だらけで憂鬱になる。これがまだ乾季だからイイけど、もし雨季に東南アジアを走れば、毎日この泥まみれと加えて暑さが襲ってくるのかとおもうとおそろしい。
・オッサン着いてくんな! この間変なオジサンたちに付きまとわれた思い出を2つ。以前、ニャチャンで宿の客引きのオッサンにしつこく付きまとわれた話をしたが、今回は付いてくる意図が最後まで分からなかった。この日は滅多にないことに道を間違え、あげくの雨で、やれやれと思いながらもと来た道を走っていた。路肩に止まって地図を眺めていると僕の自転車に横づけするバイクが一台。見れば上半身裸のオッサンがニカッと僕に笑顔を見せている。両手を使って「オマエとオレといっしょに☆▽※◎・・・」とごちゃごちゃ話しているが全く意図は汲めない。英語も分からないようなので日本語で「オッチャンなんかよう分からんけど俺向こうの方角に行くから」と言って漕ぎ出すとオッサンも僕に横づけしてのろのろとバイクを走らせる。時々あーだこーだしゃべってはオッサンニコニコしながら僕についてくる。一体なにがしたいんや?「オッチャンよ。別に着いてきたってなんもエエこたないで。どこまで来るつもり?」と言うも「ハハ!かまうなかまうな!」と笑うだけ。頼むから一人にしてくれよ・・・。何を言っても状況が変わらないのでいっそ無視することにした。方角を変えてもまだついてくる。ホンマにどこまで来はるんやろとやきもきしていると、あるところで前触れもなくブーン!といきなり速度を上げてどこかへ行ってしまった。ただ一緒にツーリングしたかっただけなのだろうか。やれやれ。
その次の日であった。全く別の街で僕は朝ごはんを食べれる店を探していた。するとまた例のようにバイクのオッサンが近づいてきて「オレについてこい」と言うのだ。僕は一言も言ってないけど、まさか朝飯の店に連れていってくれるわけじゃないだろう。ものすごくお腹が減って軽く低血糖状態だったので、面倒だったけどなんとなく言われるがまま着いていくと、たどり着いた場所は炊飯器や扇風機が並ぶ小さな家電屋だった。オッサンそこで「どや?」てな顔をしている。いや、どやと言われたかて炊飯器でも買えってことかえ??そんなんいらんよ、と笑って通り過ぎようとしたらまたオッサン着いてくる!そして今度は米の量り売りなどをしている乾物屋のような店にたどり着いた。僕は呆れてあしらうとさすがに次はついてこなかった。一体何をしたかったのか、僕が何か買えばオッサンにバックマージンがいくらか入るのか。今書きながら思ったけど、最初に炊飯器を買ってそのあとに米を買えば、朝ごはんをそれで作れるではないか!・・・ってオッサンが僕の朝飯のことを気遣ってくれてることはまずないと思うけど。
・通じてなくてもおかまいなし タイやカンボジアは割と英語を話せる現地人がいたが、ベトナムに来るとその割合はグッと減った。中部を越えると相変わらず、いや以前より増してフレンドリーに話しかけてくれる機会が多くなった気がする。しかしほとんど英語を解さないようで容赦なくベトナム語であれこれ聞いてくるので会話の9割くらいは意味が分からずただ笑ってごまかすのだけど、それでも容赦なく次々と話しかけてくるからこちらはタジタジになってしまう。僕のベトナム語といえば挨拶と買い物に使う言葉と、あとは簡単な自己紹介程度である。もっと勉強しても良かったのだが、途中から英語を覚える方に気がいってしまったのでベトナム語をそれ以上勉強することはなかったが、これだけ話しかけてくれるならもっと意思疎通がしたかったし、一番後悔しているのは料理やカフェのメニューにまつわる言葉はもっと覚えておくべきだった。そうすればバリエーションが少ないと嘆くことも減ったのかもしれない。
・28歳VS中学生 カンボジアでは小さな子供たちが旅行者を見つけるや「ハロー!」と元気にあいさつをしてくれる話を以前もしました。ベトナムもカンボジアほどではないが、子供や大人も笑って手を振ってくれる。しかしその中でもおよそ中学生~20歳くらいの若い男たちに関しては、声援というよりはどちらかというと、からかい半分に聞こえることが多い。いきなり大声で「ヘイ!」と叫んできたり、学校帰りの自転車に乗った中学生たちを追い越すと、恰好の標的を見つけたと言わんばかりに猛ダッシュでついてきては僕の周りで「はろー!」「ハウアーユー?」「ワッチャネーム?」と賑やかにしている。可愛いと思える時もあるが、あまりのテンションの高さに反応しがたいこともある。車やバイクが後ろからバンバンきてる中を並走されると自他共に危ないので出来ればやめてほしいのだが。
それはハノイに向かうラストランの日であった。この日はタムコックから100kmという僕にとってはそこそこの長距離で、コンスタントにこがなければハノイに着くまでに暗くなるし、アジア編の最後の走行なので朝から少し緊張感を感じていた。走っていると学校帰りの中学生たちに出くわした。彼らを抜き去ると例のように僕をチェイスしだしたが、今日はさっさと進んでしまいたいので、あまり相手にせず前を向いて走っていたが、それをよそに学生たちはどんどん僕の周りに集まってきていつのまにか四方八方を自転車で取り囲まれているようであった。するとそのうち彼らのいたずらな笑い声とともにペダルが重くなった気がした。もしかしたら自転車の一部をつかまれているのかもしれない。これはいい加減怒った方がイイかもしれない。ほとんどとっさの判断であった。僕は、 「なにしとんじゃコラァ!」 と後ろを向いて叫んだが、普段怒らない僕が怒っても迫力なかったんでしょうね、彼らは笑ってました。そのうち彼らは僕を離れ、それからして中学生になにを本気でキレてんねやとしばらく後悔する28歳がいた。引っ張っていたかも現場を見てないし、僕の思ってるのとは裏腹に好意を持ってついてきたのかもしれないのに。でも確かに分かるんです。あの年頃って一番イタズラしたいころやし、僕もあの時分、イタズラの2つか3つ覚えあるし、今思い出すと申し訳なくて顔を覆いたくなりますが。ああ、もうベトナムさんとは仲良くやっていこうと決めたのに、最終日に限って声に出して怒ってしまった。自分の器の小ささをあらためて思い知り、僕は心の中で「ゴメン。」と言って、まだまだ減らないハノイまでの道のりをただ黙って進むのであった。
北部に来てからは道路工事も減り、路面の状態は良好のはずだったが、ここ最近は弱い雨が続き、レインコートは手放せず、跳ね返る泥水で自転車もバッグもズボンも汚れながらこの最終日も走り続けた。残り30kmくらいから、どこから出てきたのか分からないが、車より異様な数のバイクが道を牛耳るようになっていた。間違いない、これはホーチミンでも見た光景で、いよいよハノイという大都市に近づいてきている証拠なのである。本格的にハノイの町に入ると、とうとう広い車線はバイクの洪水、バイク市民マラソン状態と化した。最終到達地点は目当ての宿であるが、ゴール地点と定めたのは鉄道のハノイ駅であった。駅の表側に行きたかったが、どこか分からず、裏側に回り込んだ。そして3月27日午後6時半、僕は東南アジア自転車旅のゴールにとうとうたどり着いた。駅を見るなし、その小ささに拍子抜けした。これが首都の鉄道の駅だというのか。ベトナム人にとっての生活の足は鉄道ではなくやはりバイクなのだ。閑散とした駅前で、プラスチックのテーブルを囲みお茶してるオッサン達がいるその緩い空気の中でなんだかやりにくかったが、せっかくなので僕は記念撮影をすることにした。自転車を立て、三脚でカメラの位置や露出を調整していた。よし!俺はハノイに着いたぞー!
ってオッサン誰やねん!?僕より先にどこからかオッサンが来て僕の自転車に勝手にまたがり自分のケータイで友達に写真を撮らせるオッサン。俺より先に撮るな!フラッシュたいてないのでたぶん逆光で顔が写ってないんでしょう、何度もオッサン撮り直しで横でイライラする僕。そしていよいよオッサンのかして自分の番。
よし、決まった!
その直後、今度はオバチャンがやってきて「私も撮る~♪」とばかりに僕の自転車にまたがられる始末。おまけに「ちょっとこいでみてもいい?」とか聞いてきたがさすがに断った。アンタら自由すぎ!!もーあー!ほんまベトナム人はー!・・・楽しいね(笑)
ここに自転車旅第一部、東南アジア編は完結した。タイのバンコクからスタートしてカンボジア横断、そしてベトナム縦断。走行距離は約3500kmに達した。初めての海外で、しかも自転車旅でと、とことん無謀なことをし始めたが、やはり最初来た時は異国におそれをなし、すぐに逃げ帰りたくなったが、なんだかんだとここまでたどり着くことが出来て感謝この上ない。自分でも驚いたがタイヤが一度もパンクをしなかったのである。空気圧には気をつけていたが、ドイツ製のシュワルベ・マラソンタイヤはやはり素晴らしい。
さて、次の自転車旅はヨーロッパであるが、その前にフィリピンに英語留学に行くことになっている。数日ハノイの町に滞在しながら、準備と町の散策を楽しみたいと思っている。