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シエナでワシも考えた

「トスカーナ地方」名前くらいは知っている方も多くいらしゃると思う。トスカーナのイメージとは?なだらかな丘の緑の美しい土地?そして美味しいワイン?トスカーナ地方を代表する町の一つにシエナがある。ロードレースを見るため立ち寄ったカスティリオーネからシエナまでは距離にして100kmちょっとあるよう。これまでのイタリア走行の経験から言って、また多くのアップダウンが予想される。トスカーナ、走ってみたらきっと美しい景色が見られるに違いない。でもこれまでだってなだらかな丘の美しい景色はたくさん見て来た。ちょっとローマの周りでグズグズしすぎだ、もうイイやろ?・・・イイやろ?とは、すなわちどうすれば?それはもちろん、電車で飛ばしてしまうわけです。

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それでいいの?はい、全くもって問題ありません。僕は全くストイックなサイクリストになろうとは思っていませんのでね。さて、自転車をこいだら1、2日かかる距離をたった1時間半でとーちゃく!っと。いや、サイクリストとして全く罪なものを感じないでもない。

シエナは歴史ある素晴らしい街並みが広がっているという。それは明日じっくり回るとしてまずはキャンプ場へ。キャンプサイトに着くとサイクリストの数に驚いた。ざっと数えただけで10人も。トスカーナはサイクリスト達にとっても憧れの場所なのだろうか?しかも平均年齢が高い、僕を除けば下は40代、上は60代までいらっしゃる。その中で3人の女性のサイクリスト達とお話させていただいた。失礼ながらお歳を重ねられ、アクティブな自転車での旅を選択されたことに驚かずにはいられない。これまでも50代以上のサイクリストはよく見かけてきたけど、やはり日本に比べ欧米人達の間ではずっとサイクリングの文化が浸透しているのだろう。こんな歳の取り方、素直に格好いいなと思う。

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翌日、期待に胸膨らませてシエナの街へ。街の外からアクセスして徐々に中心部へ。ある所から観光客でどどっと賑わうようになった。カバンや化粧品などの土産物が立ち並ぶ。そこを抜けると左手の路地に広い空間が、扇形をしたいわゆるシエナの代表的な場所の一つ「カンポ広場」である。うん、広いね。人もいっぱいやね。カンポにそびえる立派な教会、入るのいくら?へー高いね、僕はいいや。リストランテの値段を見る。パスタが10ユーロ?へー高いね、僕はいいや。カンポを辞して、バールでコーヒーとパンで安飯といこう。雰囲気の良さそうな店を見つけて入るも、バールの店員はつっけんどんな対応であった。僕は中心部を避けるようにして歩く。また大きな教会が現れたが、そこは人も少なく穏やかな空気が流れていた。ベンチに横たわり空想する。

「なんでこんなに心に響かないんだろう?」

お値段が高いから?いや、違う。人が多すぎる、これはちょっとある。街並みはとても美しいと思う、だけどそれ以上のものが感じられない。ローマは確かな感動があった。しかしそれは「初めてのヨーロッパ体験」によるところが大きかったように感じる。2週間もいればあの頃のように容易に新鮮に感動することが少し難しくなっていた。歴史や宗教の知識などあればもっと違った見方が出来るだろう。しかし無知な僕にとっては見た目でしかその街の良し悪しを測れない。シエナの街が悪いのでは決してない、美しい町だ。単に僕のものさしの幅が小さいだけの話である。拍子抜けした感じで早々キャンプ場に帰ることに。飯代をケチっていたため、帰りは低血糖でフラフラしながら、おまけに道に迷って帰ったころには疲れ果て、頭痛までしだすようになった。

翌朝、頭痛はまだ治まることなく、体全体が不調を訴えている。完全に風邪を引いてしまったようだ。オージーのサイクリスト3人組から一緒にフィレンツェまで走る約束をしていたが、断り一人キャンプ場で療養することに。テントの中は太陽で灼熱地獄になっているので、マットを外に出して飯を食う時以外は猫のように寝続けた。これまでほとんど腹も下さず、風邪もケガもなく旅をしてこれたけど、これが初めての不調。旅先での、しかも野外での体の不調は簡単に僕をネガティブに陥らせた。なんでこんな旅をしているのだろう?まだ続けるつもりなのか?ああ、日本に帰りたい・・・。

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人間よくこんなに寝れるものだというくらい僕は日中寝続け、食って、そしてまた寝た。そうするとその日の晩には風邪の症状はほとんどなくなり、頭痛もかなり治まりかけていた。

翌朝、見事完全回復を果たした僕はシエナを出発することに。昨日のネガティブ祭りはどこへやら?僕は新たなスタートに向けて意気揚々と準備を進めている。調子が良くなると風向きも変わったようだ。キャンプ場で話しかけてくれた50代くらいの女性が「私の住んでいるドイツに来たら泊まりにいらっしゃい。私も若いころ自転車で旅をしていたの。」と嬉しい誘いをしてくれた。キャンプ場を出て初めてのトスカーナ地方を自転車でこいでみると、のっけからなだらかな美しい景色が見え始めて心が躍るようだったが、その間もなく僕は出会うのだ。その景色が現れた瞬間、僕は大笑いした。すり鉢状のなだらかな大地に淡い緑のブドウ畑がむこうまで広がっている。あまりの壮大な美しい風景に冗談かと思えて笑ってしまったのだ、そしてしばらくしてから、昨日風邪でツラかったことを思い出し、この展開の変わりように今度は泣けてきそうになった。

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さらに良いことは続く。その景色に見とれているとサイクリストの夫婦が話しかけてきた。話の流れからその方達の住むフランスでもまた泊めていただけることになったのだ。うーん昨日から本当に形成逆転。この後2人に追いついた僕しばらく3人で一緒に走ることに。旦那さんは寝そべった状態で自転車をこぐ「リカンベント」に乗っているのだと最初は思ったが、足ではなく手でこいでらっしゃる。旦那さんは足が不自由なのだ、この自転車はリカンベントではなく、手でペダルをこげるように特注で作ってもらった自転車のようなのである。大きな移動は車で、景色の良い場所ではこうしてサイクリングを楽しんでおられるようであった。登りでは旦那さんのスピードは著しく落ち、緩い勾配でも歩くスピードよりも遅くなってしまうので、僕は自転車を押してゆっくりと後ろを着いていった。最初は正直なところ遅すぎて、やっぱり一人でさっさと行ってしまいたかったなと思いもした。でもやがて、行けるところまで一緒に行ってみたい、そう感じ始めた。トスカーナの風景は格別に素晴らしかった。これまでの素晴らしかった景色と比べてどう違うかは上手く説明つかないけど、「さすがトスカーナ!」と思わせるほどの美しさがある。透き通った青空と、爽やかな緑に囲まれたこの穏やかな雰囲気の中、僕たちは「ラルゴ」のペースでゆっくりと進んでゆく。僕は一人今後の旅について思いを巡らせていた。最近になって今後の旅の、日本に帰るまでの明確な計画が出来たのである。しかし昨日風邪でしんどかった時、そこまで出来ないかもと思っていた。でも今は最後までやり切りたいと思っている。東南アジアで目標の走行をやり遂げ、たくさんの良い出会いもあり、イタリアでも素晴らしい景色を見て、正直これで帰っても十分という気持ちはあった。しかしこんな旅をもう一度やるチャンスはあるだろうか?いや、あったとしても、今この20代の終盤にこそ、旅で何かを感じることが重要なのだ。今帰るときっと日本に帰ってからも中途半端なことしかできないだろう。「遊び」だって真剣にやり通す。やり切ったところで自分に大きな変化があるわけでもない、しかし先に続く一筋の道が見える確信もある。やり切るのだ、必ずやり切って見せる。僕はシエナで、トスカーナで一人そんなことを決意した。 とある町でフランスの2人は折り返すとのことだったので、また会う約束をしてお別れした。時刻は昼を過ぎ、まだ残り50km以上を残していたが、気持ちよく僕は目的のキャンプ場まで走りぬくことが出来た。

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さて、ここはフィレンツェである。ローマを出たら次に目指すのはフィレンツェかな?と考えていたがようやくたどり着くことが出来た。さあ、大観光地やぞ?どう感じる?萎えるか?心ふるえるか?楽しみにしておこうじゃないか。


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