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チンクエテッレ、天国と地獄の27km【前編】

第3者が見たら完全にタイトル負けしている今回の日記ですが、本人にとっては結構必死だったようだ。本題に入る前にまずはフィレンツェを出てからのことについて少し。

雨が続いたフィレンツェ、滞在は4泊に及んでいた。この日も朝からどんよりと曇り空、雨がポツポツと落ちていたが、今日は何が何でも出発してやると決めていた。午前中の天気の悪さでキャンプ場を発ったのが11時、さらに大きな街にありがちな一方通行だらけのフィレンツェを脱出するのに1時間以上かかってしまった。サイクリスト達の話によると今日目指すピサまでの100kmはほとんどがフラットな道だという。イタリアに来てからまだ100kmを走ったことなどなかったけど、それは坂の無い日が無かったこともあり、日の長いこの時期だから十分着くだろうとタカをくくっていたがそう上手くもいかず、フィレンツェを発って10km走った時点ですでに午後1時。さらに4日自転車をこいでないだけで、もう足はなまってしまったようで、右ヒザが痛みを訴え、60km地点のキャンプ場でこの日を終えることに。

この日のキャンプ場はレストランも併設されていた。もちろん自炊できる自分にとって利用することはまずないけど、寝る前にジュースが飲みたくなったのでスプライトの細い缶を購入しようとレジに持っていくと、なんと2ユーロ(260円)と言われてギョッとした。勢いあまって買いそうになったけど、あとから後悔しそうな気もしたので「ゴメン、やっぱやめとくよ。」と冷蔵庫に戻したら、レジにいたイタリアンガイ2名の顔は一瞬にしてこわばり、「なんで?2ユーロも払えないの?」と言わんばかりの顔をしていたので逆にこっちがびっくりした。いやいや、世の中そんな金払いのイイ客ばかりじゃありませんからね。

翌日、ピサまで40km。久々に青空が戻ってきた、この気持ち良さったらない。途中スーパーに寄って昼ごはんと今晩の食材の買い出しへ。持ってると何かと便利なトイレットペーパーを切らしていた、4つ売りからしか無かったので一番安いの見つけて購入。その晩袋を開けて愕然、トイレットペーパーではなく、キッチンペーパーだった。同じ並びに陳列するなよ・・・。長いし、トイレにも流せない、カバンに入らない分を他のキャンパーにあげることもできない。仕方ないのでナイフで半分に切り、うまく使いきることにした。サイドバッグがこいつでパンパンになる、これが次の失敗を呼ぶことになろうとはまだ知らない。

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ピサのキャンプ場に着いた。今日は40kmだけの走行だったのでまだ日が十分にある。ピサといえば言わずもがな「ピサの斜塔」でしょう。しかし最近大きな観光地続きで少々「観光疲れ」しているような気もしている。キャンプ場は木洩れ日が美しく、観光に行くよりここで過ごしている方が心地よいと思った。しかしここまで来たんだ、確認だけしておくか・・。ところでタイのバンコクで仲良くなったオジサンがいて、僕が他の友達に誘われて世界遺産のアユタヤに行くと話した時、「確認作業に行くんだね、いってらっしゃい。」とオジサンに言われ、その時は「味気ないこと言うなよ。」と笑ったけど、今僕が斜塔を見に行くのは「確認作業」の何物でもないな、とオジサンの言葉を思い出して笑っていた。キャンプ場から5分も走らせるとピサの観光エリアにたどり着く。門を抜けるとたくさんの人垣の向こうに白亜の斜塔が天に向かって、「傾きながら」建っていた。斜塔を取り囲む建造物も壮大なスケールでそびえ立ち、「確認」だけしに来た僕にとっては予想以上の感動があったのだ。ピサの観光エリアはもっと広いようだけど、回ってみようという気にはならず、早くキャンプ場に帰ってのんびりしたかったので、ピサでの滞在はわずか1時間足らずであった。帰ってご飯作りにとりかかる。うん、ゴメンねピサ、いい街だとは思うんだけど、今はこっちの方が楽しいかな。その夜、初めて見つけたのは昨日だけど、ホタルがキャンプ場を飛び交っているのだ。今晩は数もたくさんいて、草むらはまるでイルミネーションのようにチカチカと優しく煌めいていた。ホタル達が飛び交う中で過ごす静かな夜、これがお金では買えない贅沢じゃないだろうか。

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「ラ・スペッツイアまではとってもフラットだ、2時間で着くよ。」と朝おしゃべりしたイングランドのサイクリストのおじさんは言っていた。しかし距離を調べてみるとラスペまで80kmほどある。オジサン、絶対何か勘違いしてるよね?それともあなたはツールの選手なの?

この日はラスペの少し手前のキャンプ場に行く予定だ。確かに道はとてもフラット、もちろん2時間で着くわけなどない・・。この辺りはビーチリゾートみたいで、ホテルと土産物屋ばかりがしばらく続いた。普段ホテルなどに縁のない僕としてはこれだけ「いくつ星」のホテルを数10kmにもわたり見せられると、さすがに嫌味のようにも思えてくる。やっとリゾート地域を抜け、道の脇に海が見えたのだ。ずっと海沿いを走っているのにやっとの海とのご対面である。「貧乏旅行者にやっとチャンスが回ってきた。」少し卑屈に笑いながら、僕は自転車を停めて海を眺めに行った。そこで話しかけてきたイタリア人男性。聞けばブラジルを自転車で旅したことがあるといい、旅の情報を教えてあげるから私のオフィスまで来なさいと言う。男性のオフィスのパソコンで「ウォームシャワー」というWEBサイトの存在についてレクチャーしていただいた。どうやらカウチサーフィンに似た、好きで旅人を自宅に泊めてもらえるSNSのようなものだ。「長く旅を続けるならお金の節約が重要だから是非登録しておいた方がいい。」と男性は勧めてくれた。しかしお世話になるにはこのいまだ貧相な英語を何とかしないとね・・一応参考程度に聞いておくことにして、礼を言って男性のオフィスを後にした。

「ウォームシャワー」ね、うまく言ったものである。目的のキャンプ場まで20kmあり、走りきるつもりであったけど、その男性にゴリ押しされた近くの安宿で泊まることとなった。久々のベッドの寝心地は良かったけど、たくさんある荷物の移動が大変だったり、もしかしたらキャンプの方が楽だったかもしれないと思ったり。

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翌日、ラスペまでなんなく到着。しかしここで思いがけない「失敗」をおかすことに。バールでクロワッサンとカプチーノを頼んで心地よく休憩。あとはスーパーで水や食料を買っていよいよ「チンクエテッレ」に挑む時が来た(それに関してはまた後ほど)。そのスーパーでのこと、まずトイレを借りたかったのでインフォメーションの女性に英語で聞いてみると、女性は英語がしゃべれないのか?「そんなものはない」といった感じで冷たくあしらわれた。するとそこから見えるところにトイレがあるではないか。今の態度はなんだったんだろう?いざトイレの扉を開けようとすると開かない。誰かが入ってるのではなく、使用できないように外から鍵をかけている感じだった。やれ、トイレも貸してくれないのか。あきらめて食品を品定めしてレジへ。すると今度は、あれよあれよと3人のお客さんに割り込まれる。2人のオバチャンは列にカゴだけ置いて「追加」を取りに行っていたようである。もう一人のオッチャンは全く普通に割り込んできた。オッサンは意味不明だが、オバハンも一声くらいかけろやと思いつつ、こんなんで文句言う気も無いので黙って抜かされたまま順番を待つ。自転車まで戻ってきて少し溜息をつき、買ってきた食材をバッグになおそうとしたのだが、ここであの間違って買ったキッチンペーパーがカバン内を牛耳っていたので食材が入らない。仕方ないのでパーカーを取り出して、それを後ろの荷台ロープにくくりつけるつもりでパサッと置き、食材をバッグにしまい、走りだした。2kmを走った時点でフと後ろを見やれば、荷台ロープにくくりつけていたはずのパーカーが無い!?そうだ、置いただけで実際にくくりつけていなかったのだ。僕は元来た道を引き返して探すも見つからない。スーパーに戻って落し物として届いてないか確認に行った。さっきのインフォメの女性に訪ねる、何か言おうとした瞬間「ノーイングリッシュ。」と言われてしまった。言葉が分からないのは仕方ないけど、その冷たい物言いはなんなのだろう?「僕は英語でしか伝えれないの!」と身振り手振りでパーカーの所在について訴えると「分かった、ちょっと待ちなさい。」と英語の分かるスタッフを連れてきた。しかし結果パーカーが見つかることはなかったのである。パーカーを失くしたショックは少し大きかった。この旅でちょくちょく小物を失くしてきているけど、パーカーは適度な温度調節にすごく便利なので、無いととても困るし、物を大事にしている僕にとってはちょっとした仲間を失ったようで悲しかった。必需品なので新たに買わなければならないが、お金もかかってしまうなあ・・。しかしこの一連で気付いたことと言えば、ヨーロッパならある程度英語は通じると思っているその考えを少し改めた方がいいのかもしれない。英語でいきなり何か話す前に、面倒でも「キャン・ユー・スピーク・イングリッシュ?」これを挟むのも一つ礼儀なのかもしれないな。

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この日は「プチ不運」の日であったようだ。この後道を間違えアップダウン含んだ7kmを引き返し、さらに雨もポツリポツリ・・・と降ってきたがこれはすぐにおさまった。この日の終わりごろ、泊まろうとした宿に来たが受付が不在。ちょうど帰ってきた宿泊客の「英語は少しだけしかしゃべれない」という老夫婦に宿についての情報を聞き出そうとした。「この宿はいくらか知ってる?」しかし「ハウマッチ」がご夫婦には通じなかったようで、僕はお金のカタチを手で作りなんとか伝えようと頑張ったのだが、その手の形がいけなかった。ご夫婦は「なにいってんだバカ野郎。」と言った顔で手を横に振り宿の奥へと消えていった。どうやら僕がお金を要求していると思われたようである。笑える話だけどけっこうショックでした・・・。

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さて、「チンクエテッレ=5つの土地」を表すこの地域は地中海に面した急峻な山々に住む人々が生活のため見事な段々畑を形成し、また海に面した集落の色とりどりの家々が並ぶ一連の稀で美しい景観がユネスコに認められ世界遺産となっている・・・というウンチクは後から知った話でローマで仲良くなった韓国の男性がこの場所を強く勧めてくれていたのだった。この辺りはキャンプ場がめっぽう少ない。来てみて分かったことだが、山々があまりにも急なので平地が存在しない。だから段々畑を作るのである。さて、泊まりはどうするか?野宿するにも場所が見つかりにくいので、贅沢だが宿を取ることにした。運よく25ユーロの相部屋の見つかり、一般旅行客がちゃんと宿に泊まって待ち歩きを楽しんでいる中、さっきまで駐車場で野宿寸前だった僕は、やっとたどり着いたその街にいる「資格」のようなものが与えられた気がしていた。

ここからが本題。長すぎるので後編に続きます。

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