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23時間目の邂逅


フランスの南西部に位置するアヌシーという街に住む友人の家で1週間にも渡りお世話になりました。何度かに分けてアヌシーでの日々をご紹介していこうと思います。

実はアヌシーに到着してから彼らに会うまでにはなかなかの苦労がありまして。 峠を含んだスイスからの80kmの道のりを経て到着したのは午後9時。日本よりも日没が遅いのでまだ空は明るさを残していたが、今日着くという連絡はしていなかったし、常識的に考えてこの時間に電話・訪問するのはさすがに良くない。そう思って向かったキャンプ場は「人がいっぱい。」と言って断られ(そんなの聞いたことないけど)、時間も遅く湖沿いで野宿を強いられることに。休み前だからか、夜中も人通りが多く、木陰の暗闇にマットを敷いて息をひそめて寝袋に疼くもる。夜はけっこう冷え込んだ。

次の日の朝から彼らに連絡を取るため奔走する。しかしメール、電話、あらゆる手段を講じて連絡を取ろうとしたが一向に繋がらない。ところでアヌシーは静かな田舎町だと勝手に想像していた。確かに豊かな自然に囲まれて、その予想は間違いではなかったが、旧市街地は観光地としても有名のよう。ちょうどイベントと重り、その時僕のいた場所は人という人でごった返していた。連絡の取れないストレス、人だらけ、昨日の野宿からの寝不足で体力と気力は消耗する一方。心底ウンザリしかけていた。便利な時代にはなったものの、海外で待ち合わせというのはなかなか難しいものだ・・。この日は諦めて昨日断られたキャンプ場で宿泊することに。テントを張り、気を取り直して・・と思った頃、僕の前に止まった車から、友人オリビエが顔を出した。キャンプ場代を払ったばかりだったので、「今かよ!」って正直思いましたけどね・・。アヌシーにたどり着いて23時間目の邂逅だった。

(上から「湖畔で迎える爽やかな朝(超寝不足)」「待ちくたびれました」「まぶしくて寝れません」)

というわけで次の日に友人宅へお引っ越し。オリビエとアリア、猫2匹とご対面。その朝、さっそくツーリングに行くぞという話になり、アリアは仕事なのでオリビエと、その友達のクリストフさんと3人で出発。この日は山をからめつつ、湖を1周する50kmコース。特徴的な山のシェイプ、絵の具で塗ったようなアヌシー湖の神秘的な蒼さにも驚いたけど、素晴らしい自転車道がアヌシーの周りにたくさん整備されていることに感動した。難易度別にたくさんのコースがオーガナイズされていて、それに伴う標識やマップも販売されていたりするらしい。さすがフランスの自転車文化の懐の深さよ。家からすぐの所にたくさん素敵なサイクリングコースがあることが素直に羨ましい。

自転車を走らせていると、沿道に植えられた花壇の植栽の上手さに気付いた、町中の花壇も然り。イタリア・スイス、もといヨーロッパは普通の民家の前に並べられた植木鉢でさえ、園芸のセンスが本当に素晴らしい。皆が皆センスを持ってるわけでは無いと思うんだけど、なんだろうやっぱり土地の雰囲気もあるのかもしれない。植物の選択、リズム感のある植え方、エクセレント。日本によくありがちな、サルビアやジニアなどの一種類の花を均等・整列して植えたのとは違う。いや、土がむき出しで放置されてるよりはイイと思うけど、なんだかつまらない。野原のような自然な植栽が好きなのです。 そう言いながらも日本の下町とかで見られる、ゴチャゴチャっと所狭しと並べられた「お婆ちゃんの」園芸スタイル、「センス」とかの言葉で評価できるものじゃないけど、あれはあれで好きだったりもするんですけどね。

翌日は一人でアヌシーの旧市街を歩いてみる。連絡が取れず苦労した一昨日は余裕がなくゆっくりと街の散策を楽しむことが出来なかった。今日は自転車も置いてきた、これはこれで気楽で良い。そして僕は見つけたのだ、ヨーロッパで僕にとってベストのカフェを。

そのカフェ「Le Barista Cafe」という。

イタリアではほぼ毎日。物価の高さにあえいだスイスでも何度かカフェに入ってきた。しかし実は一度も本当に自分の好みに合うカフェを見つけることが出来ずにいた。アジアでは何軒か好みの店を見つけたけど、ヨーロッパでは未だ皆無。内装に統一感が無かったり、コーヒー自体にこだわりがあるところもほとんどなかったし、流れ作業的でホスピタリティを感じる店が無かった。先の2カ国でもしっかり下調べしておけばもっと自分に合う店を見つけることが出来たのだろうけど面倒なもんで。

さてここは定休日で閉まっていた一昨日通りかかった時から「イイ店」である予感はしていたが間違いでは無かった。店内は狭いけど、コーヒーに対するこだわりはいたるところに感じられる。カフェラテを頼むとマスターは丁寧にアートを添えて出してくれた。マスターのコーヒーを作る姿をカウンターから見ていると、これまで見て来た効率重視のカフェに比べれば、1杯を作るのに時間がかかっているように見えたが、その分大事に誠意が込められてるのを感じた。その所作は見ていてとても心が温まる。なんとなくマスターの風貌が、僕の実家近くにある喫茶店のマスターとかぶって見えて仕方がない。お客さんが落ち着いてからマスターとコーヒートークに花が咲いた。向こうも僕のことを気に行ってくれたらしく、この店にはアヌシー滞在中計3回通うことになるのだけど、店に入ると「HI,YUSUKE!」と声をかけていただける。コーヒーの味、雰囲気、そして店の人とお客さんの距離が近いこと。こういう店をヨーロッパでずっと探していた。遠く離れた異国の土地で「行きつけの店」を持てる幸せを、カップ片手に僕はじっくり味わっていた。

(アヌシー湖畔の旧市街地から何枚か。友人宅の猫)

まだまだアヌシーでの日々は続きます。


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