もてなす心と、もてなされる心
フランス・アヌシーでの日々は続きます。アリアとオリビエは僕のために本当にイベントを盛りだくさん用意してくれていた。箇条書きになってしまいがちだが、写真を交えながら紹介していこうと思う。
モンブランを見にシャモニーを訪れた翌日。先日ツーリングでご一緒したクリストフ、そしてオリビエと僕の3人でお昼ご飯を食べに街へ。昼食後、クリストフがオリビエに、
「ねえねえ、ちょっとユースケ借りてもいい?」
と言う。オリビエは用事があるので別行動するといって一旦別れ、もちろん暇な僕はクリストフと街を散歩することに。前のツーリングの時からクリストフは僕によく話しかけてくれ、とても気に入られてる様子。実は彼は生粋の「日本好きフランス人」だったのだ。なんと6回も旅行で日本を訪れているという。
「ここは僕のお気に入りの店なんだ。」
連れて来られたのはショッピングモールの中の本屋さん。そこは普通の本屋ではなく、漫画を中心に置かれていた。見れば棚にはフランス語に翻訳された日本の漫画が所狭しと。そういえばフランスでは「ジャパン・エキスポ」が毎年開催されるくらい日本のアニメ文化が浸透している国であった。以前ネットの記事で漫画家の谷口ジローがフランスで人気を博していると聞いたことがあるが、確かに翻訳された谷口作品がたくさん並べられていた。
「(『孤独のグルメ』を手に取って)この漫画好きなんだー。」と僕が言うと、
「知ってるよ。僕はその漫画見て大阪や東京で定食屋巡りをしたんだ!」
目をキラキラさせながらクリストフは言った、只者ではない。 「僕の部屋も見て欲しいんだ。」と自宅の部屋に案内されると、棚に並べられているのは、大量の日本のマンガとフィギュアのオンパレード。クリストフよ、君はアレか・・・オタクやね。(遅いわ)
過去6回の日本旅行の記録はそれぞれ写真集のように綺麗に装丁されていた。単に観光地だけを写したものではない。僕達には当たり前で見過ごしがち、普段わざわざ注目することもないような、日本の日常的な風景・光景。クリストフのアルバムを見ていると、宇宙から地球を眺めているような、知っているはずなのに、まるで新しいものを見ているような、そんな不思議な心地さえした。感動に値したのはクリストフの写真力と構成力があってこそ。
「このアルバムは本当によく出来ているよ、クリストフ。」と言うと、 「いやいや、君の国がすごいんだよ!」だって。
文化と歴史、自然も豊かなフランスこそ僕たち日本人は憧れを抱いているだろう。そのフランスの方が僕たちの国ををここまで愛してくれるのだから、なんか申し訳ないくらいに嬉しいね。僕が日本に帰って、またクリストフが日本に旅行に来ることがあったら、どこに連れていって、どんなもてなしをしてやれるだろう?と考えると、それだけで僕はワクワクしていた。
翌日、オリビエから「ツーリングに行くぞ!」の一声。 基本的にオリビエの先導、坂の多い場所では僕が先を走ってオリビエを待つ。(以前書いたけどオリビエは足の力が弱く、腕でペダルを回す特注の自転車に乗っている。平坦・下りは早いが、登りは極端にスピードが落ちる。)アヌシーは今日も真っ青の空の下、大地は初夏の鮮やかな色彩に満ちている。
実はこの日、僕のアンテナの感度は一時的に弱まっていたよう。もちろん景色もろもろに感動することは何度もあったけど、連れ出してくれてることに億劫さを感じている瞬間も何度かあった。連日の遊び疲れだろうか、どうにも心に余裕がない。遊んでもらっているのに勝手な話だな、今僕はつまらない顔をしていないだろうか?自分の中でしばしば葛藤していた。
ツーリングから帰ると「ビール飲みに行くぞ。」とパブまでの長い距離を歩く、家飲みでもイイんやけどなと思いながら。家に帰ると、「湖でライブがあるから行こう。」仕事から帰ってきたアリアと共に3人で再び外出。音楽は大好きで、この日催されたライブも悪くはなかった。普段なら踊っていただろうけど、最後まで自分のスイッチが入ることはなかった。
たっくさんのイベントを用意してもてなしてくれるのは、本当に嬉しい。でも、もてなされる側はもてなしを「受け入れる余裕」も必要なのかもしれない。今回は、僕の方があっぷあっぷしてしまった感じ。もてなすということは、「かまう」だけでなく「ほったらかし」の時間も与えてあげることも同じくらい大切な気がした、そうすることで心の余裕を再び得ることが出来るのだとも思う。それでもやっぱりその気持ちは嬉しく、2人には感謝することしきりである。
2人とはまだまだ遊ばせていただきます。楽しきアヌシーデイズ、次回で最終編。