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ハンバーガー屋のお姉さんが激高した時、私は。

バーゼルという街はドイツ・スイス・フランスの国境が一同に集り、昔から貿易に利用されている有名な「ライン川」にも面している。現在に至るまで産業が盛んで、その土地柄からか歴史的な舞台としての役割も果たしてきたとても興味深い街である。しかしながら高校の世界史の授業中、僕は安定の睡眠率を誇り、唯一覚えてることと言えば「お前もか、ブルータス!」のセリフのみで、大した知識も興味も無ければ、駅を離れてしばらくして感じたことが、7月初めのバーゼルはそれは恐ろしい程の熱波に包まれており、とても街に感心を示す余裕などなく、早めにキャンプ場に着いて休むのが良かろうかと思った。

バーゼルの街をしばらく北へ進むと、ささやかなドイツとの国境の看板が現れた。フライトのチケットをドイツ発で予約しているので、ここが今回のヨーロッパ旅の最終訪問国というわけだ。やがて僕はライン川と対面することに。イタリアで地中海付近を旅したように、この川ともしばしば旅を共にすることになる。ライン川といえば今もタンカーが行き交う貿易の要衝という認識があったが、バーゼル付近のそれはタンカーが通れるような広さはおろか、堰もあって、至ってその辺りの川となんざ変わりない(後ほど再会するライン川はまた違った様子を見せてくれました)。川に沿うサイクリングロードを北上していたのだが、なにせ暑い、なんという暑さだ。

(↑君はアホですか?ええ、私はアホです。)

やがてたどり着いた小さな町のキャンプ場。ところで僕の先輩サイクリストはドイツの方に対して「旅人に対して寡黙でアンフレンドリー」という印象を持ったそうなのだが、僕はこれまで出会ったドイツの方でそういう印象を感じたことはなく、今回入国して初めてドイツの方と会話したことになるキャンプ場の受付の男性は、そんな前情報をよそに拍子抜けするほど、底抜けに明るいのだ。 「アハハ!ハロー!泊まりたいの?大丈夫だよ!僕英語あまり話せないの、ゴメンね、アハ!1泊12ユーロだよ。え?高い?じゃあ6ユーロでいいよ、アハハ!」 って、いきなり半額かい。商売っ気あるんかいな。別にディスカウントの要求もしてなければ、ちゃんと元値の12ユーロでお支払しました。ドイツに入って最初に会話した人がこの人だったから、なんか一気にドイツの印象が僕の中で良くなった。そして次の瞬間には大してこの街に用もないのに、 「やっぱもう1泊してもイイ?」 と聞いてる自分がいた。ああ、なんて自堕落な旅人だろう。

(↑「日本の映画のDVD持ってるんだー、『変態仮面』サイコーだよねー。」よりにもよってそこかい。もう一つは『ヤッターマン実写版』でした。)

テントを張ると隣町のスーパーへ買い出しへ。夕方5時を過ぎても暑さは収まるどころかさらに日差しが突き刺してくるような気がしてると、町中に設けてあった温度計を見て呆れて笑う。そこには「39℃」と書かれてあった、ゲロゲロ。

さて、恒例のスーパーでの物価調査、合格点はもらえるか?お、野菜は良い値段。ドイツといえばソーセージ、おお値段も種類もエクセレント。パスタやその他エトセトラは?おおお!安い、安いのだ。生きていける値段設定。食材によっては日本より安い。ああ、ドイツの印象が僕の中で鰻登りにあがっていくぞ!どうやら僕のその国に対する印象は「コストパフォーマンスの良さ」で決定付されることが分かった、なんて現金な奴なんだろう・・・。いやあ、もっと早く来れば良かったな。

(上:スーパーに出前一丁が売っていた。汗ダラダラ流しながらハフハフ食べた)

 下:ドイツといえばソーセージにビールの認識に間違いはありません。安くて旨いのなんの!ああ、もっと食べておけば良かった。。)

事件はキャンプ場を出た後のハンバーガー屋で起こる。その日も恐ろしいほど暑かった。昼飯としてカバンの中に残っているライ麦パンを腐る前に食べてしまいたかった。しかしこの暑さの中、味付けのないボソボソのパンを食べるのはなかなかの地獄絵図が予想される。ちょうど1件ハンバーガー屋を見つけ、物価の穏やかなドイツならたまには外食も良かろう、冷房で頭を冷やさなければどうなかなってしまいそうだ。

昼時でカウンターは若い家族連れや学生で賑わっていた。やっと僕の順番が巡ってきて、セットメニューを頼む。注文の際1、2度「え?え?」と向こうの言うことが一度で分からず店員のお姉ちゃんに聞き返していた。思えばその時点で相手方のボイラーの温度は上昇しているようだった。しばらくしてトレイに2つのジュースがのせられる。暑くて頭がのぼせていたのもあり、「ドイツではセット一つにジュースが2つ付くのだろう。」と適当に解釈した刹那、ハンバーガーも2つ出てきた時点でやっとおかしいことに気付く、値段も2倍だった。 「ちょっちょ。俺1セットしか頼んでないから。」 と言った瞬間、レジのお姉さんは僕のレシートをグシャッと握りしめ、 「それ、私さっき2回確認したよね!?」 とエライ剣幕で噛みついてくるではないか。そ、そないなこと聞かれましたっけえ?? それから僕は「すまへん、すまへん」と平謝りしてなんとか1セットにしてもらい、トレイを受け取る時は「ありがたき幸せー」という低姿勢でその場を収めた。ハンバーガーを頬ばりながら「なんで私お客さんやのに怒られなあかんねやろー。」とか「目の前一人しかおらんのになんで2セットの発想が出るのやろー。」とのぼせた頭でアハハと一人苦笑い。陽気なキャンプ場の管理人と、修羅のようなハンバーガー屋のレジ係、いったいどっちが本当のドイツ人なのだ?(2択なわけあるかい!)

その後たどり着いたフライブルグという街。この後も走行を続ける予定だったが、もーやだやだ、暑すぎて命の危機さえ感じる。キャンプ場もあるみたいなので今日は終わりー! そのキャンプ場のスタッフ達はさっきと一転、とってもフレンドリーで素晴らしいホスピタリティ、サイトは木洩れ日が美しく、おまけに受付の姉ちゃんがカワイイときた。僕の心のフューエル・メーターの針は一気に「FULL」まで達し、次の瞬間にはこう思う。 「よし2泊しよう!」 こんな怠け者が社会復帰など出来るだろうか?もう1回さっきの姉ちゃんに怒られにいってくるか。(次はあつあつのポテトを鼻に突っ込まれるかもしれない。)

結果オーライでフライブルグの街はとても面白かった。輪郭のはっきりした建築とカラフルな街並みはまるでオモチャみたいで、一つ国境をまたぐだけでここまで趣が変わるとは。本当にドイツにはもっと早く来るべきだった。


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