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ここを「我が家」とする。

長時間の移動疲れと緊張からの解放で、クライストチャーチに着いた翌日は夕方になるまでベッドから起き上がることが出来なかった。食料を買うため外に出ると、空気はキリっと冷え、口から漏れる吐息は白く、とっぷり暮れた紺色の空に溶けて消える。南半球に位置するニュージーランドは7月のこの時、冬の真っ只中。この前まで滞在していたドイツではむせぶような暑さに辟易としていたのにこの変わり様。知識として知ってはいたけど、地球の反対に来ると本当に季節も逆さまになるのだと身をもって体感した。フィールドワークとはまさにこういうことを言うのだろう。

ニュージーランドという国については、四方を海に囲まれ、かつてはマオリ族を始めとする先住民族が住んでいたが、19世紀よりヨーロッパからの移民が始まり、やがてイギリスの植民地となる。独立した今も街並みその他にイギリス文化の名残が感じられ、中でもクライストチャーチは「イングランド以外で最もイングランドらしい街」と言われていたが、2011年のカンタベリー地震により、多くの古い建物が倒壊・損傷した。4年経った今、街にはまだまだ更地の場所や、崩れたまま痛々しい姿で残る建物も見受けられる。しかし街は復興に進んでいて、新しい商業施設の建設や道路の復旧作業を至るところで見られる。またこの街は「ガーデンシティ」という名を持ち、市内には本当に驚くくらい日本では緑地レベルの広大な公園がたくさん存在し、代表的なのは中心街にある「ハグレーパーク」で市民の憩いの場であると共に、春には桜が咲くということだからとても楽しみだ。

もはや自転車での旅はヨーロッパでクライマックスに達し、このニュージーランドこそ旅の果てにたどり着いた場所だと感じていた。ワーホリビザも無事認可され、これから僕はバリスタ修行のため、このクライストチャーチの街で仕事を探し、しばらくの間住み、働く。最後に時間を貰えたなら、この国を旅することはあろうがそこにベクトルは置かなくてもいいとさえ感じている。そういうわけで、宿に着いてからは仕事を探すための準備に奔走した。滞在資金にはまだ十分余裕があったし、誰かに就労をせかされている訳でもないのだけど、まるで僕は自分自身にプレッシャーをかけるがごとく身も心も忙しくしていた。やがて税金や銀行という具体的なものに着手するとなり、手続上「自分の住所」を持たなければならないことが分かる。他にもやることは色々あるので「家探し」は手っ取り早く決めてしまいたい。するとワーホリの情報サイトの掲示板に地元ファミリーのルームシェア情報が掲載されていた。向こうの提示するお家の条件に興味を持った僕は、他の物件と比較することも無く、翌日にはそのお家へ見学に行き、その日の晩にはお互い入居の確認をしたのだった。NZに着いてから1週間ほど経ったころのこと。我ながら信じられない早いペースで、就労が本当に具体化していくようだった。

(上 : 宿で仲良くなった日本人の女の子と韓国の方。

下 : 紹介を受け、前もって連絡していたカナダ人とも会うことが出来た。以前は外人とサシで会うとなると緊張したけど、最近英語環境ばかりだったからこういうことも何でもなくなった。)

そのお家は街から10kmほど離れた郊外に位置している。カフェでの就労を希望となると、当然ながら店は街に集中していて、住む場所も街に近い方が通勤も簡単、当初はそのつもりだった。しかし自然豊かなNZに来たのに街中に住むというのはどうも芸が無い。もし仕事が見つかり、この家から自転車で通うとなると少なくとも30分以上ペダルを踏まなくてはならないが、自然が仕事の疲れを癒してくれるのではないか。僕はあえてそこにプライオリティを置くことを選択した。そして新しく「我が家」となったその家からは、歩いてたった1分で、それは美しいビーチにアクセスが出来る。続いて一緒に住まわせていただくご家族について。家族構成はKIWI(ニュージーランドのネイティブの呼称)の旦那さん、日本人の奥さん、小学生の娘さん、猫さん1匹。実質ホームステイのようなものだが、食事は全て自分で作り、自分の部屋が与えられる。それまで海外旅行の経験の無かった僕が、ヨーロッパの地ではほぼ日本人に会うことも無く、計2週間以上にも渡る現地人のお宅でのホームステイラッシュ、さらにはこの間ビザ取得のために英文の書類に目を通しまくったりしていたのもあって、もはや英語環境への恐れはかなり無くなっていた。就職も地元のカフェを狙っているし、このままさらに英語力を伸ばすためには日本人にはむしろ会いたくないとさえ思っていた。最初に見つけた物件情報で即決したのがこの家だったけど、奥さんが日本人であったのは結果的に凄く有難いことで、まだまだおぼつかない僕の英語力では聞きたいことも全て解決するだけの力が無い中、確実な言語で痒いところまで情報をもらえるというのは、海外で就労するという新たなチャレンジに向けては余りある程のプラスであるし、単純に心の拠り所でもある。(英語伸ばすために奥さんとも英語で話すよう試みてますが、ついつい日本語使ってしまいがちな時も。ちなみに旦那さんは英語のみ。娘さんはバイリンガル、うらやましい・・。)入居して一瞬のうちに家族たちと仲良くなり、猫さんにいたっては入居翌日に僕のヒザで眠りだすという信頼を勝ち得たのだったニャー!ちなみに家賃は週120NZ$(2015年7月、1NZ$=約85円)で、ルームシェアの相場としては安い方。生活に必要な家具、調理道具付き、さらには光熱費も含まれているのだからむしろお得と言ってもいいのではないか。

家が見つかり、税金や銀行の手続を経ると、いよいよ就職活動の開始。その前にもう少し生活のことや、NZ・クライストチャーチのカフェカルチャーについて次回ご紹介したいと思います。


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