春に呼ばれた人ー就活編②ー
仕事探しの旅は続く。「バリスタ修行」から「旅の資金稼ぎ」へと序列は変化した、というか元の予定に戻したというべきか。しかしまだカフェで働くことを諦めたわけではない。もちろん叶うならば「超カッコイイ店」や「自家焙煎している店」で働きたいし、履歴書配りの際もそういった店を優先している。しかし返事さえ返してもらえないとなると、手当たり次第配っていくしかない。履歴書は自分をアピールする重要なツールだけど、嘘を書くことはもちろん出来ない。20代は身を旅に捧げ、職を転々としてきた僕は未だなんのプロフェッショナルでもない。いつでもやりたいようにやってきたけど、なぜもっと要領生きてこれなかったのか。相変わらず返事は返ってこない。どんどんやさぐれていく僕はあげくベッドに寝転んでフテ寝する始末。「ああ、『腐る』って英語でなんて言うんやっけ?」
その日は午前中3件オンラインで履歴書を提出。「送信ボタン」を押しながら「どうせ返事もくれへんのやろけどねえ?」と冗談を言う程やさぐれ感は極まっていた。しかし同じ日の昼過ぎ、携帯電話に1件のショートメールが。なんと午前中申請した店の担当者からで、「仕事探してるの?トライアル受けてみる?」という内容であった。急に体の血がザワザワと動き始める。同時に自堕落な生活に身も心も甘んじていた僕は、動かざるえない状況に一抹の寂しさを覚えるダメ人間。居ても立っても居られない僕は一人部屋の中をグルグル歩きながら、慎重にメールを返信した。
話は早く決まり、翌日トライアルを受けるためそのカフェへ。やはり今回もナーバスなっていたが、先の2件の時ほどでは無い。深呼吸のち、店のドアを開けた。面接はものの1分ほど、次に担当者の女性は僕に仕事をさせる体で色々と説明をし、気が付けば僕はお客さんにコーヒーを運んだり、食洗器でカップを洗っていた。 「今日はこの辺で終わりね。次はコーヒー教えるからまたメールするわ。」 これはもしかするともしかしてかも?これまでに無い「確かな感触」を掴んだ僕は、帰り道自転車をこぎながらニヤつきが止まらなかった(気持ち悪いわ。) 奇跡は続く。その翌日、今度は別のカフェからも面接の誘いが! 「も、モテ期到来っ・・・!!」
(雪が降りました。)
その新しい誘いのカフェでも面接。「ラテアートは出来ます。」と言うと、「じゃあ今作ってよ。」となり、この頃には初めてのマシンでも対応するイメージが頭で出来上がっていたので、スピードはともかく自分でも良いフラットホワイトを作ることが出来、向こうの反応も悪そうではなかった。翌日トライアルとして3時間ほどその店で働く。コーヒー作りはなく、主に皿洗い、テーブルセッティングなどの基本業務だったが、もはや「頑張る」以外の選択肢がない僕は、死に物狂いにテキパキとこなした結果・・・
「ユースケ、今日は良くやったね。君とコントラクト(契約)したい。」 「リアリー!?センキュー!!(きたあ!!!)」
内定が決まった店は先の1件よりも家からの距離が近く、また地元の老舗ということで家の奥さんからも推薦されたのでその店に決めさせていただくことにした。先の1件にはその日のうちに直接訪問し、心苦しかったが通勤時間を理由にトライアルを中断することを伝えた。つたない英語でも出来る限り誠意を込めて言ったつもりだったので、相手も「うん、たぶんその方が君にとってイイと思うよ。」と担当者も笑顔で言ってくれた。家に帰って一緒に住んでる家族に報告すると、心配してくれていたのかものすごく喜んでくれた。
(就活スタイル。旅の汚い恰好を控えてキレイめにしてます。)
終わってみれば履歴書を配ったのは25件、そのうち面接やトライアルを受けたのが5件。内定後も2,3件の返事を受け取った。この時NZは冬で、就活にも不利な時期であったにもかかわらず仕事をゲット出来たのは運も良かったのもあるけど、言葉の壁を越えて、仕事ぶりが認められての採用というのは個人的にとても嬉しかった。これまで中途半端な生き方をしてきた僕だったが、経験が0では無かったからトライアルでもしっかりやれたのだと。やっと過去に光を当てることが出来た気がしている。とはいえ、これはスタートラインに立ったに過ぎず、これからが本当の勝負の始まりなのである。 家の奥さんに「ずっと寒かったんだけど、君が来てから暖かい日が続いてるよ。」と嬉しい言葉をいただいた。しかし当たり前だが、僕は魔法使いのように春を呼ぶ人間ではない。僕が呼ばれたのだ、ニュージーランドの春に。
身が引き締まるような寒さ続くクライストチャーチだが、道の脇には梅や桜に似た花が咲き始めていた。