花の咲くころ
「ニュージーランドでは桜が見られる。」 そう聞いて心が躍らずにはいられなかった。なぜならこの2015年の春にはもちろん日本におらず、僕は英語留学のためフィリピンでむせぶような暑さの中、桜とは縁遠い生活を送っていた。しかもクライストチャーチに数多ある公園の中でも代表的なハグレーパークでは、なんとあの日本の「ソメイヨシノ」が見られるという。
「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」在原業平
これから春を迎えようという9月のニュージーランドにて、僕は心をそわそわさせ、鼻息は自然と荒くなっていた、ンフー。
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というわけでそのハグレーパークにやって来た。いや、実は別の場所でプラムや桃といった桜に似た花は何度か見ている。しかしその場所に来て、やはりこの花は私達にとって特別な存在であると改めて思う。むこうまで伸びる、優しいピンクのトンネル道。これはまさに私達の知る日本の春の風景ではないか。
そこはクライストチャーチでも最も桜が多い場所だと在住の奥さんから聞いていた。確かにNZでこのライク・ア・ジャパンな植え方は豪華極まりないが、いかんせん、すぐ横を走る車の音がうるさすぎて気分はやや盛り上がらない。広大なハグレーパークだ。もしかすると他にも静かに桜を鑑賞できる場所があるかもしれない。そして僕は見つけたのだ、「ボタニカルパーク」というその場所を。
桜はたくさんあるわけではない。しかし「植物園」の名にふさわしく、NZのネイティブな植物が多種多様に植えられ、まだ春先だというのに非常に多くの色彩にあふれており、その中にポツ、ポツとぼんぼりのように咲く桜のピンクはまた一層の華やかさを感じられた。園内は静謐で穏やかな空気が流れており、華やぐ色彩の中まるで僕は「桃源郷」にいるような錯覚を覚えた。また林の下には一面の白や黄色のスイセンが咲き乱れ、「桜と菜の花」は日本でも見られるが、「桜と水仙」の組み合わせはNZならではの気候による見事な演出といえる。
この場所にすっかり魅了された僕は、桜の咲いている間3回訪れた。今年の春見れていなかった分、しっかりとNZで桜を堪能させていただいた。在住の日本人にとっては心の拠り所だろう。私達だけでなく、この優しいピンク色の空に、笑みを浮かべない人なんて、きっといないだろう。
(桜の下で食べるおにぎりは最高です。)