羊に逃げられ、アルパカに好かれた日
職場の同僚に「ニュージーランドはもう旅したの?」と聞かれることがあるのだが、無論全くしていない。仕事を終え、この国を出る前にはいくらか旅してみようと思うのだが、今は休みの日に近くへツーリングに出かけるのが精一杯である。日本にいた時、休日電車に自転車を積んで出かけていたようにNZでも試みたものの、国が違えば勝手も異なるようで。今回は2つの「未完成ツーリング」の模様を写真を中心にご紹介しようと思う。
(http://railnewzealand.com/ の地図を参照。赤い線が鉄道)
日本はあらためて鉄道大国だなと思う。大阪や東京はそれこそ蜘蛛の巣のように線路が張り巡らされているし、よほどの山奥でなければ、大概の場所へ公共交通機関で行けてしまう。しかしNZは違った。この国の電車網がどれほどか調べてみると、NZの全体地図に数本の糸がシュルルっと伸びているだけ。しかもそのほとんどが観光向け。通勤や通学でおしくらまんじゅうの日本とは目的が全く異なっている。その理由の一つは圧倒的な人口密度の違い。国土の広さを2国で比べるとそれほどの変わりはない。しかし日本の人口は1億超、対してNZと言えば500万に満たないという。つまり私達日本人はNZに比べてデータ上で20倍以上狭い空間で生活してることになる。NZは羊の方が人間に比べて密度が高いそうだ、It's really funny!
というわけで日本でしていた気軽な電車輪行というのが、NZでは難しい。しかし電車が伸びていない土地へは、大きな街からであれば長距離バスでアクセス出来る可能性がある。1発目にご紹介するクライストチャーチ→アカロアへも「French Connection」という民間会社により予約制のバスを運営されている。
さて、チャーチから南へ離れたアカロアAkaroaという港町を目指すことにした。家からアカロアまで最短距離でも90km、さすがにこれはしんどいので、チャーチ市内を走る公営バス「METRO」を使ってリトルトンまで移動し、さらに小型船で湾内を移動し、ダイアモンドハーバーからツーリングを開始させた。ちなみにこの「METRO」バスはチャーチ市内の移動がとても便利で、チャージ式のカードを作っておけば格安で乗れるほか、バスの外側には自転車の荷台が設けてあるので、分解せずとも気軽に自転車を積むことが出来る。
ダイアモンドハーバーから少し走ると、さっきまで街にいたのが嘘のようにNZらしい広大なランドスケープが姿を見せた。しかしこれはまだ氷山の一角にすぎないのだろう。なんてったって羊の方が密度の高い国、これは本当にいつかじっくり長旅する価値がありそうだ。
走りだしたのは午前10時、アカロアからチャーチに帰るバスは午後4時。6時間もあれば70kmくらい、と簡単に考えていたのだが、昼を回るころからだんだんと時間までにたどり着けるか焦りを覚え出す。公営バスはなく、民間営業の予約制バスは午後4時のアカロア発その1本しかないので、逃すと今日中の帰宅が困難になるという実はすごく恐ろしい旅なのだ。最初の浮かれ気分はどこへやら、途中からは「数字を減らすためだけの旅」となり、それはもう必死にペダルを踏んだ。こんなのは旅であって旅ではない。そんな無理なペースがたたり、ラスト25kmを残して足に疲労が蓄積して言うことを聞かなくなってきた。おまけにこれから大きな峠が立ちはだかっている。いよいよ本当に帰宅が危ぶまれてきた。この状況で峠を越えてアカロアへ行くのはリスクが高い。趣味では無かったが、僕は人生初めてのヒッチハイクを試みた。しかし自転車も一緒だったのが印象良くなかったのか、一台も停まらず(NZ内でのヒッチハイクでの事件が度々起こっているそうなのでやらない方がいいそうです)。あとは自力で来た道を帰る方法もあるが、予約している手前、バス会社に連絡くらいはとっておかないと。スタートから45km走って初めての集落、リトルリバーLittle Riverにて、すぐに途切れてしまう弱小の電波の中、数度目のトライでやっと電話がつながったバス会社と交渉の結果、リトリリバーで自転車ごとピックアップしていただけることとなり、僕はその日中にお家に帰ることが出来たのである、ほんまにスンマセン。
別の日、また僕はツーリングに出かけることに。この日はチャーチから「METRO」バスの「B」路線に乗ってしばらく北へ向かったランギロアRangioraという街からオックスフォードOxfordまで家族から勧められた田舎道を経由して目指す予定。しかし僕は基本的に事の始めがいつもスロースターター。ランギオラにバスで着いてからはお気に入りのカフェ「CREMA」さんでのんびりカフェラテを飲んでから出発すると時刻はすでに昼の12時を周ろうとしていた。始めこそ風向きも良く順調にこぎ進めていたが、オックスフォードからランギオラまで戻るバスは自転車を積めるかどうか下調べをちゃんとしておらず、またも帰宅出来るかの不安に駆られた僕は目的地に着くまでに、無念の逆戻りをして帰路に着いたのであった、アホか。
という訳で、電車網が発達して、どこからでもエスケープ出来る日本のツーリングのようにはいかない。さらにチャーチの街を出ると、それはもう圧倒的に集落や店といったものに出会わなくなり、あるのは自然と羊くらい(いや、ほんと。)それなので、NZで自転車でツーリングに向かう時は計画は念入りに(バスなど交通機関は自転車積めるか要事前確認)、朝は超早く、食料飲み水はしっかりとが基本なのである。え?当たり前?
とはいえ早春のリトルリバーでは桜系の花が賑やかに咲いていたり、ランギオラ発のツーリングでは弁当広げて昼寝したり、アルパカに出会ったりと(羊には近づいた瞬間、大挙を成して逃げられる)、目的は達成されていないが楽しめていた。また性懲りもなくリベンジするかと思います。