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思考の森の中でーお仕事5カ月目ー

ニュージーランドに着いて早5カ月、仕事も他の同僚たちと変わらず劣らずやれている。(英語力はさておき)NZを出たら、この旅最後の目的地・南米のパタゴニア地方へ向かうべく、荷物の見直しなどを始めていたのだが、同時に残り2、3カ月となったNZでの滞在を少し名残惜しんでもいた。クライストチャーチの街や家の海にも愛着があるし、KIWI達は穏やかで目が合えばニコっと微笑みかえてくれる(時々10代の若い子達がからかってくることはありますが)。自分の余暇、家族や友人との時間を大事にするNZの仕事のあり方や原発に依存しないエネルギー政策など、うちの国もそうであればと羨ましくなる。何よりもここで関係を作ってきた方達と別れることが寂しくて。職場の仲間や一緒に住んでいる家族たち。しかし旅立つことには疑問を感じていなかったし、旅を再開できることに興奮している。旅に別れは必然だ、過ごした時間が長い分ツラさは増すけども、次に進むためにはしょうがないことなのだ。

(上:3カ月目にしてキュウリがやっと初収穫。 中:漬物は楽しい  下:ネコさんを探せ!どこかにネコさんが、正解は下の方で。)

そんな折、親から一通のメールが来た。滅多に僕の生き方に口を出さない親父が珍しく口を開いた、「もう少しNZにいて英語でも覚えた方が将来的に職の幅が広がるのでは?」と。

僕はこの旅を終えた後、しばらく日本で働き、もう一度ワーキングホリデーを利用してオーストラリアでバリスタ及び英語修行に挑戦するつもりでいた。確かに今の環境は素晴らしいし、それを捨てて旅に出るのは普通の頭ではない。滞在を続ければ仲間たちとももっと多くの時間を過ごせるし、魅力的ではある。しかしパタゴニアの自転車旅に適したシーズンは今すでに始まっているのだ、旅はいつでもできると言ったて、それが本当にいつになるかなんて分からない。親父には悪いが、そんなアホな、俺は今やりたいことを選ぶ、そう思いつつも実は心の水面はさざ波立っていた。

それから2、3日後。僕はボタニックガーデンの森の中を歩きながら近い未来に思いを巡らせていた。ベンチに腰かけ、小さな池で優雅に浮かぶ鴨のつがいをボーッと見つめてみる。「なぜ僕は旅に出たのか?」という単純な問いを自分に投げかけてみると、思いつく答えの一つに「旅を終わらせること」があった。始まる前から終わりのことを考えるのは変な感じもするのだが、要は旅に身を捧げていた20代を卒業して、生きていくために次のステップへ進みたいのだ。そのためには完全に自分の旅欲を満足させる必要があり、ここでパタゴニア旅をいつか分からない先送りにすることは、ずっとモヤモヤを抱えながら中途半端な状態で、結局は何をやっても上手くいかない未来が想像出来た。だからこの今、旅という期間は全て終わらせて、それで僕はやっと自分の人生と真っ向向き合える気がしていた。あとは単純に旅に行きたくてウズウズしていた。「ワクワクする方を選べばいいんじゃないか?」相談した友人の一人はそう答えた。ワクワクする方・・となるともう答えは決まってるよなあ。

森の木々は夕暮れの太陽を浴びてオレンジ色に煌めいていた。それはまるで自分の選択を祝福してくれているような気がして、次の瞬間僕はベンチから立ち、何か自信のようなものを感じて歩き出していた。

それから僕はパタゴニア行きに向けて、真剣に現地情報を調べ始めた。パタゴニアに行きたい理由は至極単純というか浅はかで、それは「世界の果てを自転車で旅したい」というものと、もう一つは知り合いの憧れているご夫婦で、5年かけて世界を自転車で周られた中で特に素晴らしかった場所としてパタゴニアを挙げられているからだった。ということで今まで憧れだけで何の知識も無かったのだが、調べれば調べるほどパタゴニアへの興味と、旅への決意も増す一方であった。しかし懸念材料は現地の気候であった。向こうの自転車旅のベストシーズンと言われるのが12~3月であるが、僕がこちらの仕事を終え、現地に迎えるのはおそらく4月始めのこと。寒冷地であるため、自転車でキャンプをしながらの旅は可能なのか、英語サイトも交えて調べてみてがどうにも不明瞭なまま。そして僕はある一つの情報を見つけて愕然とした。それは「とあるパタゴニア内の国境が4月中に閉鎖される可能性あり」とのこと。これは行政機関などが発している公式の情報ではなく、自転車旅行者による記述で、確信性は全く100ではないだろう。しかし僕はこう思った、どれだけ寒くなるのかも分からない、さらに閉まるかもしれない国境を案じながら果たして旅が楽しめるのだろうか?というより第一に命の危機につながる恐れだってあるわけだ。そこにフと頭に浮かんだ一案に気付いた刹那、僕は一度その考えを記憶からかき消そうとした。

しかし、ちょっと待てよ。そのアイデアは黄色い優しいような光を放ってフワっと浮かんでいるように思える。僕はその光に導かれるように手にとり、抱え、それから数日後に僕は思いもよらなかった決断をした。それは今シーズンのパタゴニア行きをやめ、NZの滞在を続けるというもの。パタゴニアは諦めたのではない、来シーズンに回すのだ。焦って旅することは危険だし、あまりにももったいない。だからこそ次のベストシーズンに思いっきり旅をした方が気持ちよいだろう。NZに滞在続けることでバリスタ&英語修行も継続できるし、単純に大好きなこの場所にいることが出来ることが嬉しい。どうせ予定通りパタゴニアに行って日本に帰ってきても、僕は一つの職場に落ち着く気は更々無いなんだ、旅を終えるのが1年後になるくらいどうってことないやんか。当初「それはない」と思っていた滞在案が案外すんなり胸に収まったのは正直自分でも驚きだった。

しかし湧き上がる旅欲をどうするものか。どうせ長くいるならNZを自転車旅してみたい、それには長期の休みが必要だ。僕は職場のボスに相談する、元々面接時に半年だけの滞在と告げていたので、延長することを伝えると思いの他喜んでくれて嬉しかった。さらに出来れば3,4週間旅行のためにお休みをもらえないか相談してみるとこれも快くOKが出た。これがNZや欧州、対して日本との違いなのですよ。これは僕が一時的な労働者だからではなく、その国に住む人たちも1年のうちにこうした長期休暇を取るのが普通なことなのです。

というわけで今後の予定について。3-4月あたりにNZ南島を自転車旅、ビザの切れる7月まで働きながらNZ滞在。その後、一度日本に帰ります。態勢整えた後、12月ごろ再出発(もしかしたら早めて他の国も旅するかも?)の段取りです。もう少し大きな移動は無いので見ていただいてる方にはつまらないかもしれませんが、「さすらい喫茶」の旅はゆっくり続きます、温かく見守っていただければ幸いです。

(上2枚:"Buskers Festival"という大道芸の祭典がハグレーパークで毎年開催されているようです。日本の大道芸士も参加されていて会場は大いに湧いていましたよ。

  下;ネコさんはここにいました。「何?飯?」)


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