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旅することに理由は必要か? Biking in NZ 2


分かっちゃいたけどやっぱりだ。予報の通り昨日の晩から雨が降り始めていた。2日前の寝不足をまだ引きずって体が重い。サンドイッチを朝昼2食分作って、チャーチのお気に入りのカフェ"C4 COFFEE"のエチオピアの豆を挽いてドリップする。立ち上るフローラルな香りはなまけた体の細胞を呼び覚ますよう。「わざわざ雨の日にチャリンコこがんでも・・」これが仕事無しで自由に旅している身分なら、この居心地の良い宿にもう1日身を置いていたことだろう。しかし今回の旅にはリミットが設けられている。なまけたい気持ちを可能性として残しつつ、僕は宿を発つ準備を始めた。

レインウェアを着て、まずは街で旅に必要なあれこれを補充。雨は思いのほか強く、今日はそれほど多く移動しないので、カフェで空の機嫌を伺うことにした。昨日に続き2件目のカフェだが、両方美味しいとは言えないもので、ラテアートなど皆無。お昼を過ぎるころまでいただろうか、雨は弱まるどころか増しているようにも見える。グズグズしている自分に一喝。「ええい!はよいかんかボケエ!!」再度レインウェアを纏った僕はようやくオマルーを発ち、自転車旅は始まった。なぜだかその瞬間雨は弱まった。

走り出してすぐ「A2O」のサインを見つける。A2Oは通常アルプス側から海側に進むことを推奨されているが、僕はその逆を行く。一応、旅の前にA2Oのオフィスに問い合わせしておいたが、逆走しても問題はないよう。事実、アルプス側にも同様にサインで道が記されており、安心した。しばらく公道の脇道を進むとサインは右に曲がることを促し、それに従うと道は突如オフロードへと変わった。もうそこは車の進入出来ない自転車専用の道。A2Oはこのように公道と、専用道。またオン・オフロードも同様に混在している。いずれ旅する南米ではオフロードの道も多いに予想されるため、良い練習になることだろう。雨の後でぬかるみや水たまりになってないか案じたが、少しタイヤが吸い付くくらいで問題にはならない。街を出たばかりというのに、道の周りには早くも馬や牛が草を食む牧場が現れ始め、ペダルを踏む度景色はどんどんシンプルさを増していく。やがて、坂を上る時の自分の吐息以外何も聞こえない世界までやって来た。民家など皆無、空は灰色の雲が低く垂れこめている。電車もバスも無い、頼れるものは自分しかいない。便利な生活を離れていきなりポツンとその状況に立たされた僕は一抹の不安より、ゾクっとするような興奮を覚えた。

「旅やなあ・・。」

振り返ると丘が幾重にも折り重なって地平線まで続いている。もうずっと前に旅したフランスの景色に似ている。針葉樹の木立の道は神秘的、そこを抜けると脇に生えていた広葉樹は葉を黄色く染め、気の早いものはハラハラと風の中に散っていた。

トレイル上に簡素なトイレと飲み水の水道のある休憩所を見つけ、今日はそこでテント泊することにした。初日からキャンプサイトでも無いけど、地元の人でさえ用事もない何もない場所なので(牧場の牛たちが時々物珍しく僕の所作をのぞいているくらい)、おそらく問題なかろう。風が少し強く、珍しく四方にペグを打ち込む(ものぐさな僕は普段ペグを打たない)。新しく購入したテントは前のより少し重いけど中は40cmほど広くなり、荷物を全て入れても余裕がある。家から持ち込んでいたうどん、庭で穫れたキュウリなどを使って晩御飯。少し冷えるので温かいものが心と体に染み渡っていくのを感じる。

昨晩は近くの林に何か獣の類がいたようで、頻繁に甲高い声を聞いては目を覚ました(声から察するにサル?)。それだけならまだしもたくさん着込んだのに冷える冷える。チャーチではこの前までセミが鳴いていたと思うと、つい最近スイッチを気り替えたたように急に冷え込むようになった。これから山に向かうというのにどうなることやら。今朝も相変わらずの曇り空、しかし僕は今日も自転車で旅が出来ることに喜びを感じていた。昨日も地味な天気で雨さえ降っていたのに、身震いするほど興奮していた。なぜ自転車なのか?いつも明確な答えは持ち合わせていない。自転車をこぐ行為は僕の体の細胞を奮い立たせ、インプレッシブな光景にカメラを向ける。それだけで僕はこの上なき幸せを感じる。いいでしょ?単純で。

この日のA2Oのオフロードは楽しかった。道は狭くなり、細かなアップダウンを繰り返すが、景色は次々と変わり、その度に僕を圧倒させる、それはまるでジェットコースターのように。トレイル上には羊や牛たちがのんびりと闊歩していたり、道の脇には赤いリンゴの木がなっていて、ちょいと拝借すると甘みは少ないがその酸味に自然の恵みをいただく喜びを感じる。 2日目にして初めて現れた集落Duntroonでは必ず食料を補給する必要があった。しかしメイン通りは静かなもので、僕の期待するようなお店の気配を感じない。唯一見つけたカフェさえも閉まっており、はてどうしたものかと、車の修理工場で街のことを訪ねると、出迎えてくれた笑顔の素敵な女性は「この辺りはあまり何もないけど、うちで冷凍のパイなら売ってるわ。」と言う。日本人的にパイと言えば「アップルパイ」などのスイーツを連想しそうだが、NZでパイと言えばビーフやラムの「ミートパイ」が一般的。これはもちろんイギリス輸入の食文化である。そのパイを4つ購入して2つは今食べるためにレンジで温めてもらった。いやあ、地獄に仏とはこのこと。オマルーを出て初めて地元の人と会話したこともあり、心が安らいだ。

Duntroonにもキャンプ場があったが、1日を終えるにはまだ早すぎる時間で、進むことを選択。しかし次の街Kurowまでは30km、おまけにほぼオフロード。その道はまだ整備して間もないのか、土壌が柔らかくタイヤがいやに吸い付き、ほとんど登りは無いのにスピードは10kphまで落ち込む。体力も奪われるのを感じ、牧場の木の柵に持たれ込み、この場で横になって寝てしまいたい気分だった。今日も適当な場所でテント泊になるのか?食料や水はギリギリ持ちそうだが、出来ればシャワーを浴びたい。僕は状況を変えようとした。A2Oトレイルを無理して走ることは無い。その時すぐ横を舗装された公道が走っていて、その道に乗り換えると、面白いくらいタイヤが回る、回る。それからは気分も体力も回復して、またトレイルに復帰。水辺のそばの道は植物にあふれていて興味深い。小川を横切るちょっとしたアドベンチャーな区間も越えて、やがて次の街Kurowにたどり着いた。今日は念願のキャンプ場に泊まることが出来る。$17もするのが痛々しいところだが、設備はしっかりしてそうだ。KurowにはNZの田舎によくある「4スクエア」というスーパーマーケットでようやく食料を補給することも出来た。サイトは人が少なく、2日空を覆っていた雲はいつの間にか消え去り、澄んだ夜空にはたくさんの星が瞬いている。明日は良い天気になりそうだ。


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