川と見立てたその煌めきを Biking in NZ 3
今朝もグッと冷える朝。キャンプ場のキッチンで昨日の晩から知り合いになったサイクリスト・ベンと鉢合わせたので、彼の分も一緒にコーヒーを淹れてあげる。ベンはオートミールを牛乳で炊いていた、日本で言う「おかゆ」みたいなものだろうか。スコットランド出身の彼曰く「俺の国の定番なんだ、力が出るよ」と。A2Oトレイルでは多くのサイクリストとすれ違う。その多くは空荷、持っていても一つや二つのカバンだけ、泊まりは宿を利用してるのであろう、歳はそれなりに召されて、複数の人数であることが多い。ベンも同じく熟年サイクリストだが、彼は一人でキャンプしながら旅をしている。気難しい一匹狼のような雰囲気があるが、話してみると気さくでイイ親父なのだ。ベンはオマルー方面に行くようなので、情報を共有し合い、お互い別々の方向へと旅立った。
昨日、おとついのグズグズした天気と違い、どこを見ても鮮烈なブルースカイ。やがて横手には木々の隙間から湖が見え始めるようになった。Kurowを抜けてからはしばらく湖が連続して現れるよう、きっと景色は良いはずだ。しばらく国道を走っていたが、ダムを横切る道を渡って Lake Aviemoreの北側に来ると、車はほとんどいなくなり、吸い込まれそうな湖の濃い蒼色が視界の横に広がっている。景色は綺麗だが、100mに1度の割合で野生動物の轢死体があるものだから少し痛々しい。その点自転車のスピードではまず動物を殺めることなどないからエコロジー&フレンドリーな乗り物である。このあたりにはいくつかキャンプ場が存在するが、管理人は常駐してないのか、お金はhonesty boxに入れよとのこと。キャラバンの類がたくさん泊まっているが、サイトには全く人気が無く、周りの静けさも相まってなんとも不思議な空間である。
道の木々は所々色づき始めており、黄色くなるものが多いようだ。また、頻繁に見かけるのが、1~2mほどの低木で、おそらくバラ科の植物だろう。鮮烈な赤い実を多量につけている。昨日道端で食べたリンゴに味を占めて、あの赤い実も食べれるのだろうか?と卑しい想像をしたが、知識も無いのに食すのはさすがにやめておいた。日本にもヨウシュヤマブドウのように実に毒を持つ植物もあるからね。
景色を楽しみながらのんびりこいでいると次の集落に着くのが遅くなった。Otematata(オテマタタ)NZにはマオリ・ルーツのヘンテコな響きの村の名前が多い、だからある意味一度聞くと忘れない。昼食は食べていたが、時間がかかりすぎて軽いハンガーノック(一種の低血糖)に陥っていたようで、デイリー(NZによくある小さな商店)で買ったアイスやスナックを獣の勢いでむさぼり食った。後から動画で撮っておけば良かったと思うほど、食べている時の僕は本能的になっていた。
今日はキャンプ場を利用する気はない。その理由は今の天気から予想するに、夜は素晴らしい星空になるだろう。その星空を何の明かりの無い場所で眺めたかった。オテマタタから小さな峠を越え、夕暮れに差し掛かってきたころ、Lake Benmoreのそばまでやって来る。トレイルは湖に沿い、静かな水面は夕日に照らされた向こう岸の山を見事に映し出し、思わずその美しさに息を飲んだ。そして僕は見つけ出した、ここならキャンプが出来そうという場所を。すでに暗くなり始めていて、ヘッドライトの明かりを頼りに晩飯を食べる。肝心の星空だが、あいにくお月さんが煌々と輝いていて、星自体はそれほど多くない。キャンプ時の月の存在は心強いし、無論見とれるにふさわしき美しくさは認める。しかし今夜は星空を見たかったがために少し気を落として眠りについた。夜中、フと目が覚める。今夜は昨晩のように冷え込む感じは無く、むしろ心地よい。またまどろみの中に戻ろうとした刹那、僕は星空の様子が気になり、テントのジッパーを開けて空を見上げた。
「きた・・・。」
漆黒の空には無数の星が音も無く煌めいていた。お月さんはすでに山の影に隠れたよう。その天空の中で帯のように星が集まっているのが分かる。目を凝らせばそれはただ点の集まりだけでなく、ガスのような白い滲みも確認できる。なるほどよく言ったもの、あれは確かに「川」という言葉にたどり着くわけだ。三脚を立て、カメラの設定を合わせ、シャッターを切ると、生唾を飲みこむような、今までに無い写真が撮れていて、僕は興奮した。何度も何度も見上げてはため息を漏らし、この星空を見れたことに感謝して手を合わせたのだった。