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あなたの選んだ道だから Biking in NZ 4


どんより垂れこめる雲の帯。いつまでも終わらない悪路、悪路。時計を見る度焦りがつのる。僕はついに本気を見せてきたニュージーランドで一人自転車を押しながら辟易としていた。

息を飲むような美しい星空の夜が明け、僕はまた西へと進路を取る。朝、テントの目の前に広がるLake Benmoreは今日も穏やかで、澱み無き清らかな水は空の全てを映し出している。一人旅というのは時間の使い方も全て自分次第、とはいえその自由さが時に仇となる。目の前の美しさからしばらく逃れることが出来ず、この日の中継地、Omaramaを発つころには昼を過ぎていた。これからA2Oトレイルの山場を迎えようというのにだ。

Omaramaから国道を30km北へ走れば、TwizelというA2Oトレイル上にある比較的大きな街に着く。しかしトレイルはわざわざ山道を経由し、大幅に遠回りしながらTwizelに続く形をとっている。もちろんA2Oトレイルをなるべく踏破したいし、景色もこれからハイライトを迎えるようである。朝グズグズしていたがため、自分の経験とペースから計算しても、山越えを完了するのはおそらく日が暮れるギリギリのところであろう。明日は雨の予報なので行くなら今日しかないと思った。国道を逸れると車はほとんどいなくなり、乾いた大地の真ん中に走る道は寂しく、果てしなく続いているように見える。ゾクッとする感覚を覚えつつ、僕はペダルを踏むことを選択した。

不幸にも、道は思いのほか早くオフロードへと変わり、しかも砂利は荒くスピードがガクッと落ちる。幸いなことにはまだこの時、何組かのサイクリストとすれ違い、気は幾分和らいだが、自然保存区のゲートを越えたが最後、人気が無くなった。景色はガラッと変わり、痩せたグラスが点々と生える大地と乾いた山が向こうまで続いている、そこには無垢なる自然しか存在しない。道はグッと狭まり、土質は柔らかい。一見走れそうなのだが、微妙な登り傾斜もあいまってフル装備の自転車では完全に走行が出来なくなり早くも降りて自転車を押すハメに。さらに、幾度現れる小川を横切る場面があり、その旅に足は靴下の中までグチョグチョ。まだ1か2割は楽しむ心の余裕もあるが、残り時間の関係でどうしても早くこの悪路を抜け出す必要があった。もうここまで足を踏み入れた以上山の向こうまで行く以外選択肢はなかった。明日雨の予報なので、もし適当に野宿しても状況は明日より悪くなることが予想出来たからだ。道は傾斜を増し、足元は10cmある石で敷き詰められていて、いよいよ僕を本気でいじめたいようである。登れど登れど終わりが見えてこない。空の光量がみるみると落ちていくのも分かる。垂れこめる低い雲が不安をあおる。足元を見ればため息の出るような石の道。実はこの山道を登りながら、ずっと向こうには今日目指すLake Ohauが見えていた。もし下の荒野に道があるなら、わざわざ山道を経由する必要は全くないのだ。

「誰がこんな道作ったんじゃい。」

あなたが好きで選んだ道だからしょうがない。幾度と続くつづら折れの道を、祈るような気持ちで押し続けること暫く、とうとう山越え道の頂上にたどり着いたようだ

余韻に浸る間もなく、今度は下り。楽になるかといえば全く楽にはならない。なぜなら土壌が相変わらずひどいまま。サドルにまたがれば衝撃がすさまじく、片足をペダルに乗せ、もう片足は地面につけてバランスを取りながら下っていく。前を向けば景色も良さそうなもんだがそんな余裕もなく、このストレスフルな道にもだんだんとうんざりとしてきた。この時間に山越えしてるのは明らかに失敗に見えて、一方では正解であった。道は自転車同士がすれ違うのにギリギリの狭さで、すぐ横は急斜面で下に落ち込んでおり、もっと早い時間なら推奨方向で来てるサイクリストと鉢合わせていたこと必至でそれはそれで危ないからだ。何はともあれ、フル装備の自転車で挑む道ではない、景色も絶対的にここに来なければ見れないものでも無いと思うし、これだけ衝撃をくらわして自転車にもいいはずないだろう。空荷のMTBなら楽しいのだろうな。

そんなつらい道のりも、見ればだいぶ高度を下げてきたようで、いよいよLake Ohauが大きく視界に広がってきた。土壌も改善され始めてきたころ、嬉しくなって僕は布施明の「マイウェイ」を歌いだしていた。Lake Ohauから道を挟んで向かいにあるLake Middletonという池みたいな小さな湖のほとりのキャンプ場についた頃には日はすっかり暮れ、そそくさと晩御飯を食べると、泥のような疲れを感じて眠りについた。


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