無策な男と、優しきKIWI Biking in NZ 5
雨の滴がテントの屋根を打つ音で目が覚める。
昨日適当な格好して寝たものだから、夜中体が冷えたようで頭が痛い。おまけに外は雨のよう、最悪。昨日の山越えの疲れは取り切れてなく、鉛のように重い体をなかなか起こすことが出来ない。この雨と頭痛の中、今日は進むのか否か。ぼんやりと思案に耽ては、夢とうつつの狭間で泳いでいた。屋根を打つコンスタントな雨。やれやれ、どれだけ降っているのか見てやるか。テントのジッパーを開けて外をのぞくと、聴こえた音とは裏腹に雨はそれほど降っていない。次に首を右に向けた時、意識は完全に覚醒へと切り替わった。昨日越えてきた山に、とてつもない大きな虹が・・!カメラを掴み、湖のほとりまで僕は急いで駆けた、草に纏う水滴がサンダルを伝って素足が濡れていくのを感じながら。一通り落ち着き、昨日の頑張りが報われた気がして誇らしくなる。旅の神様は見ていてくれていると。
今日の目的地はTwizel、30kmくらいの軽い距離だが、頭痛と疲れもあるので出来れば楽に着いてしまいたい。出発前にOhauの集落で食料と水の補給が出来ないか探したが見当たらず、地元のオジサンに聞いたら「ここはホンマなんもないで。湖で魚釣ったらええやんか、ダハハ!」と。どちらかというと欲しいのは食料では無くて水。キャンプ場の水は沸かさないと飲めないらしく、それも道中の自炊と飲み水で使いきり、いよいよLake Ohauの水をボトルに汲んで「いよいよ喉が渇いたらこれを沸かして飲むか・・」と意気込んだが結局使わずに済んだ。
Lake Ohau沿いを走っている時は雲の陰影と水が調和し、幻想的な光景を作りだしていた。湖を離れると、Canalと呼ばれる川に似た水路が現れ、この辺りの水質のせいなのか、その色は絵の具で作ったような驚くべき鮮やかなブルー。そのCanalでは何かの魚の養殖が行われているよう、これはまた後ほど分かる。
もうすぐTwizelというところで、横からロードレーサーに乗ったオジサンが話しかけてきた。しばらく走りながらお喋りしていると、どうやらクライストチャーチに住んでるらしく、しかも僕の職場のカフェから近い場所にご自宅があるそう。
「今日はどうするの?」と聞かれ、 「疲れてるからBack Packerがあったら泊まろうと思ってる。」と言うと、オジサンはインフォメの前まで案内してくれ、
「じゃあ(チャーチの)カフェでね。」 と言って颯爽と去っていった。
何はともあれTwizelだ。Oamaruほど大きな街では無いけど、小さな店が集まっていて不便は無さそうだし、ここらでいっぺん休憩やな。街に入った時からその穏やかな空気に良い印象を感じていた。肝心の宿探しだが、informationはすでに閉まっており、どうしたものかと考えていると、さっきの自転車のオジサンが再び僕の前に現れた。
「あのさ、俺、嫁さんとレントハウス借りて泊まってんだけど、お前も良かったら一緒に泊まってくか?」
いきなり面白い展開がやって参りました。謙遜を見せながらも「是非お願いします。」と頼み、オジサンの後を自転車で着いていく。レントハウスとは家をまるまる1軒借りる、NZの一種の宿泊施設である。家に着くと、よそ者何やつ!とばかりに吠えまくる小型犬2匹と、満面の笑顔の奥さんが出迎えてくれた。「いやーいきなりで申し訳ないです!」マークと奥さんのポーラは、僕が会ったばかりのどこの馬の骨とも分からぬというのに「俺達知り合いのBBQに行くからさ、好きにやっててよ。」と僕と犬2匹を残して家を出た(ちなみに2人帰ってくるまで犬には吠え続けられた)。後から聞けば、2人共昔よく自転車旅をしていたらしい。ここまでの旅で見た奇跡ともいえる美しい景色と、この出会い。ああ、つくづく僕は運がいいのだな。
マークとポーラは高校生になる自分の娘さんのボートレースの大会を見るため、このTwizelにやって来てるようである。NZ全国規模の大会のため、生徒とその保護者達が、ボートレースの行われる湖の周辺の集落に泊まりこみで来ていて、Twizelは人口400人程度らしいが、この2日間は人口が5倍くらいに膨れ上がり、宿という宿は全て埋まっていたのだという。ちなみに僕もそのレースを見に行きました。人手と各高校の立派なテントもさながら、コーヒーテイクアウェイの店や、スナックの店が立ち並び、さながらお祭りのようである。
すでに荷物をまとめて家を出て、2人とは別行動でこのレースの観戦に来ていたのだが、運良く、広い会場で再び僕たちは再会することが出来た。ここを最後にして、今回僕たちはお別れしたのだけど、チャーチでは僕の職場で再会する約束をした。突然の出会いで始まり、いくつかの共通点が重なり、短い間だけど温かい時間を共にした。仕事で毎日KIWIの人と関わるけど、旅人として彼らと関わってみたい。それがこの旅の目的の一つであった。ありがとう、マーク、ポーラ。胸にじんわり残る温度を感じながら僕はまたTwizelへ戻るため、ペダルをこぎ出した。