冬と珈琲 "Brew in Winter"
写真でも分かるよう、この冬はエスプレッソの研究に励んでいました。職場ではシングルオリジンが10種類、ブレンドも合わせれば20種類ものコーヒー豆を販売しています。その中でもエスプレッソブレンドは、黒々として油が光るイタリアンロースト。「エスプレッソといえば深煎り」という考えは今や時代遅れで、最近は浅煎りや中煎りの豆を使うことは珍しくありません。うちの店はドリップコーヒーを売りにしており、エスプレッソにはさしてこだわりが無いのですが、先日お客さんから「他にエスプレッソに向く豆って無いの?」と言われ、これはやはり一度研究する必要があると思い、豆を全種類買ってはエスプレッソとラテにした時のそれぞれの味わいの記録に努めてきました。
結果、焙煎の度合いが違えど、しっかりしたキャラクターを持つ豆ならエスプレッソにせよラテにせよ美味しいということ。ただそのフレーバーにより合う合わないもあり、例えばウォッシュドのエチオピアの浅煎りをエスプレッソにすれば酸っぱくて飲めないし、ラテの場合ミルクに負けて味がしないということもある。深煎りの豆なら確かに苦みやコクといったコーヒーらしさは感じやすいけど、抽出によってはスモーキー&ストロングになりがち。ミルクと合わせても、しっかりコーヒー感を残しつつ、チョコレートのようなコクと甘さが感じられたら合格点。加えてその豆が持つフレーバーも感じられたらより素晴らしい。そこに至るまでには豆の選択、焙煎度合い、ブレンド、そして適正な抽出が求められ、可能性は無限大である。ややこしい話は抜きに、今回の実験でエスプレッソへの理解が少し深まったのと、お客さんにオススメできる豆もいくつか見つかったので良い体験となった。
手網焙煎は相変わらず続けています。しかし正直仕上がり具合には限界も感じている。それはもちろん僕の技術が足らない所もあると思うが、均一にムラなくコンスタントに熱を与える焙煎機に敵う筈が無い。豆の水分量、大きさ、産地の標高などの違いで、焙煎の進み具合は全く異なる。焙煎の難易度の高い豆となると、熱の与え方に一貫性が無い手網焙煎ではどうしても膨らみが良くなかったり、表面にムラが出来てしまう。焦がすまいとするばかり焙煎に時間がかかり、香気成分も失われていく。たとえ構造がシンプルで安価な焙煎機があろうと、そこにお金を費やす場合では無いので、旅を終えるまでは手網でもうちょっと奮闘してみようと思います。
(エチオピア・イルガチェフG1ナチュラルはバラのようなエレガントな香りとストロベリーとチョコのコク甘さ。)
コーヒー豆の産地ってどこを想像しますか?ブラジル・コロンビアといった中南米。またはエチオピアやタンザニアといったアフリカ。実はアジアでもコーヒーは作られています。インドネシアのマンデリンやトラジャは日本人に有名。ベトナムではインスタントコーヒー用の品種が多いとはいえブラジルに次ぐ生産第2位の国。さらにそれ以外にもタイ・カンボジア・インド・中国、、、と日本からそう遠くない国々でコーヒーは作られています。ただしインドネシアを除いて、アジアのコーヒー豆の流通は少ないことは確かです。ところで、友達がラオス旅行ぬ行くというので、お願いしてラオス産のコーヒーを買ってきてもらったのだ。首都ルアンパパーンに店舗を構える"Saffron Coffee"がプロデュースする農園で採れた豆を、焙煎して販売しているよう。ドリップコーヒーで飲んだ感想は、アジアらしいマッディな重みとスパイシーな複雑さ、そして後味にわずかなシトラスフレーバー、正直特別に美味しいという感じはしなかった。ところが同じ豆をラテにするとこれがチョコレッティなコクと甘さが際立ち、非常に美味しかったのである。
また、仲良くさせてもらってる心斎橋のLilo Coffee Roastersさんが、社員旅行で訪れたフィリピンの農園視察の報告会で飲ませてもらったコーヒーがとてもフルーティーで甘味が強くとても美味しかった。どちらの国もまだ世界のコーヒー市場には乗り出していないが、総じてアジアのコーヒーには今後注目すべき価値がありそうだ。
コーヒー生産国は日本や西洋諸国よりずっと貧しい国が多く、過去には然るべき値段で取引されず、生産者の生活は豊かになりづらい現状があることをコーヒーのドキュメンタリー映画で知った。ここ数年は生産者の生活レベル向上を考慮した取引などの動きが出てきたが、全ての農家が潤っているわけではあるまい。また、コーヒーの木は傾斜地で栽培されることが多く、栽培・収穫には苦労を要し、1本の木から採れる収穫量は多くない。だからこそ大切に扱いたいものだ、コーヒーだけでなく、農作物や命あるもの全てに。
当たり前に存在するものが尊いことを、町中に住んでいると忘れがちです。僕はこの冬、節分の恵方巻きの売れ残りが大量廃棄されるというニュースを見て、この国に嫌気が差しそうでした。ニュースになる以前から食品廃棄は毎日どこかしこで行われているわけですが、一過性のイベントを利益のために後先考えないやり方で盛り上げようとする行為は「商売上手」と本当の意味で言えるのでしょうか?売ったら終わりではなく、売った先のことを売る前から作る前から考える、そういう企業が増えて欲しいと思いますし、国が社会が、消費者も意識を変える必要がある。
ちなみにうちの職場では、僕の影響で他のスタッフもラテアートに興味を持ちだした模様です。あと半年、僕の出来ることを共有して、それを置き土産に南米に旅立とうかなと勝手ながら妄想しています。
次のストーリーでは南米旅のことについて。