ここは天国にあらず? Not so heaven
From villa Cerro Castillo, road surface has become unpaved and basically bad for smooth pedaring.And strong wind hit me, so I almost gave up cycling. however, landscape around me is incredibly beautiful. I will keep try, take it easy.
その日は朝から不運続き。まずはキャンプ場の犬に後ろから噛まれかける。アイツは僕のテントをまさぐろうとしていたので追い払った所、それを根に持っていたようで、別の場所ですれ違いの際いきなり飛びついてきた。幸い、ズボン止まりで皮膚にはいかなかった。ペルーやボリビアに比べて、パタゴニアでは野良犬に遭遇することは少ないが、ここのキャンプ場の犬のように躾のなってない場合もあるので油断はならない。犬も可愛いやつは可愛いんですけどね。吠えてくる犬が全部大人しい猫だったらいいのに。
次に長年使ってきた荷台ロープが無くなったことに気付く。1日中大きなカバンを背負って自転車をこぐというのはかなりの苦行。滞在していた村は田舎で新品では見つからないので、仕方なくタイヤチューブをナイフで切って代用することにした。
そんなこんなVilla Cerro Castilloを発ったのはお昼過ぎ。ここからアウストラル街道は終点のVilla O'higginsまで未舗装路が続く。オフロード走行は楽しみにしていたけど、いざ始まると思いのほか土壌は荒く急な坂道の連続に加え、向かい風。3日分の食料を積んだ自転車は重くて押して進む他無し。朝の不運も続きと相まって、早速やる気が無くなってきた。この日は20kmしか進むことが出来ず、野宿場所も限られていて、工事現場の片隅にテントを張った。風が強く夜中もテントはバタバタと揺れていた。
翌日もやはり道の状況は悪いまま。周りの景色は素晴らしいのだが、いかんせんそれを楽しむ余裕は僕にはない。さらに敵は立ちはだかる。こんな辺鄙な場所でも車がよく通り、その度に砂埃が舞い上がっては僕に降りかかり、咳込み、顔中砂だらけ。時折、親切なドライバーはスピードを緩めてくれるのだが、大概は荒々しく埃を立てて走るので、やり切れない気持ちにもなります。
パタゴニアの夏の風物詩(?)巨大バエのタバーノも紹介しておこう。こいつらは人間を見つけると嬉しそうに顔の周りをブンブン飛び回るだけでなく、皮膚に針を刺してくるし、時々ヘルメットやサングラスの隙間に入り込んで暴れまわるので「全滅させたろかコルァ!!」という自分でも恐ろしい言葉が自然と出てきます。晴れた日ほど奴らは元気で、走っている時も休憩している時も顔の周りをブンブンブン・・・もはや発狂しそうな勢いだ。
アウストラル街道はサイクリストにとって「天国」とも称されるようだから、もっと旅しやすいものと思っていたけど、これは誰にでも勧められる道では無いことだけは分かった。この調子ではウシュアイアどころかアウストラル街道さえ走りきれるか不安になる。これだけ歳を食っても、いつでも心の折れやすい自分に嫌気が差してきた。
だけどペダルをこぐ以外に道は無し。すると不思議にも漕ぎ進めるうちに余計な不安は雲が晴れていくように消え始めた。ペダルをこぐ足取りは軽くなり、気が付けばこの日の目標距離を越えてグイグイとこぎ進める自分がいた。
3日目、目指す町まで40km。もはや不安は無し、悪路なんて何のその、自転車をガタガタいわせながら前へ前へ。やがて道はLago Buenos Airesという南米でも有数の巨大な湖に合流。湖面は信じられないようなミルキーブルー、そこに雲間から差し込む太陽の光が当たった時、化学反応を起こしたか如く、それはまるで鮮やかな宝石と化した。ペダリングを止めて後ろを振り返る。輝く湖の向こうに、幾多の雪山が静かに雄々しく佇んでいて、しばしその場所から動くことが出来なかった。
この10年、旅に人生を捧げると同時に、人に誇れるような生き方は出来ず、思い悩むことも多い。しかしこれまで歩んで来た道のりが今、僕をこの景色の前に立たせているのなら間違いでは無かったと思うのだ。
やがて目指していた町Puerto Rio Tranquiroに到着、やれば出来るやんか。いつだって諦めていいつもりではいるけれど、諦めなかった先に見える景色があるからまたペダルをこぎたくなるんだな。