top of page

その朝を僕は忘れない・後編 "Fitz Roy Trekking 2"


日付は変わり、別ルートのトレッキングへ。

このエリアを象徴する意味ではMt.FItz Royと双璧を成すCerro Torreを見に行くのだ。日帰りで行くと往復8~10時間のやや健脚の人向けプラン。登りはさほど多くないので、南米で自転車旅が出来る体力があれば十分だ。今回歩いていて気づいたが、僕は自転車旅においては他のサイクリストと比べてペースが遅い方だけど、トレッキングに関しては歩くペースが速いみたいで、急いでるわけではないのに、何十人とハイカーを抜かしていた。有名な場所なので初心者も多いという理由もあろうが、やはり普段自転車旅してるだけあって基礎体力は人より勝るよう。社会適応能力は限りなく劣りますがね。。

(エル・チャルテンでお世話になったキャンプ場 "Casa Azul"。トイレ・シャワーは他のキャンプ場より清潔だし、同じ敷地内のホステルに泊まっても1000円とかなり良心的。1カ月半ぶりにベッドで寝たよ。人が多いのはパタゴニアだから仕方ない、キッチンやWIFIは人の少ない時間に使うのがコツ。オーナー夫妻はとても人柄が良く、気持ちよく過ごせました。)

サクサク歩いてあっという間に目的のLaguna Torreに到着。石灰分が多いのか、湖は白濁していてさほど綺麗という感じでは無いが、鉛筆を3本並べたようなセロ・トーレと、周りの氷河有する山々との複雑な景色の一体感には驚くばかり。数時間歩くだけでこんな絶景に出会える場所は世界探しても早々あるもんじゃないだろう。その中でも山肌を覆う、太陽光が反射して青白く輝く氷河には長い時間、目を奪われた。自然の芸術性にはいつだって驚かされる。エル・チャルテンでは晴れの日が続くことが少ないそうだが、僕が来てからというものの、毎日良い天気づくしで、今日もLaguna Torreに着くころには山を覆う雲はどこかに消えて、くっきりとした絶景を拝むことが出来、ご満悦の表情で帰路に着いた。

しかし何か心に引っ掛かりを感じていた。それは言うまでも無くフィッツ・ロイの朝焼けが見れなかったこと。ところで帰国のチケットはすでに買ってしまった。日本で友達との約束に合わせるため、予定よりも、ここでおちおち時間を使っているとゴールのウシュアイアまで自走で向かうのが日程的に難しくなる。フィッツ・ロイは青空の元でしっかり見れたからもういいじゃないか?きっと時間が経てば、朝焼けへの思いも忘れるだろう。

エル・チャルテン出発を前日に控えた夕方、僕は諦め悪くこの辺りの天気予報を確認した。すると明日の早朝には晴れマーク。あれ以来、フィッツ・ロイは僕の記憶の中でその姿を雲に隠していた。僕はすぐにカバンに荷物を詰め込んで、飛び出すように山へ向かう。その熱量はまるで恋に似ていた。もう一度、あの山に会いたい―。

前回のPoincenotのキャンプ場は遠すぎるので、コースの中程に位置するLaguna Capri(カプリ)のキャンプ場は2時間もあればたどり着ける。前回ほどフィッツ・ロイとの距離は近くないが、キャンプ場から歩いて1分で、山を望む湖の畔にアクセス出来るので便利が良い。

(1枚目 テントのジッパーが壊れたので 2枚目のテントの修理屋さんで直していただいた。お値段たったの千円! 

3枚目 日本人のご家族と仲良くなる。とても気の良い人たちだったのでまたどこかで再会したいなあ。4枚目 ガイラ・アンドリューが先に出発、次はどこで会うかな? 5枚目 カプリのキャンプ場で、なぜか知らないチリ人からいきなり未開封の紙パックワインをいただいた。たぶん重たいから誰かにもらって欲しかったんだろうと思うけど、なんか気持ち悪いし、捨てようかなと思いつつ、毒味したら全然大丈夫だったのでグイグイ飲んでたら3日)

翌朝、テントのジッパーを開けて宙を確認する。星は見える、よし!他のキャンパーを起こさないようにコソコソと必要なモノを持って湖の畔へ。フィッツロイも東の空も曇っては無さそうだ、これはいけるかもしれない。空気はヒンヤリ冷たく、マットを地面に敷き、寝袋にくるまって暖かい紅茶をすすりながらその時を待つ。

だんだんと闇のベールが薄くなっていく。心なしか、山肌が薄っすらとピンク色に染まり始めた気がした次の瞬間、フィッツロイはピークの先から突然輝き出した。

「ついに・・来た!」

それはまるで鍛冶場で火にかけた剣の鮮烈なオレンジ色に似ている。辺りを見回しても、標高が高いフィッツ・ロイ、その山だけがまだ明けきらない朝に、煌々と燃えるように輝いていた。

こんな感動的な朝をかつて経験したことがあったろうか?これからの人生、楽しい時も、落ち込む時だって多々あろうと思う。それでも僕はこの朝を決して忘れない。ありがとう、フィッツ・ロイ。


bottom of page