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完璧な旅路などあるものか "Don't need perfect"


後悔の無いパーフェクトな人生を送ることは簡単でないように、旅路もまた然り。やってからの後悔、やらなくても後悔。人はその時、過去を振り返っては、別の選択肢に思いを馳せる。

帰国のフライトは直前に買うつもりだった。なぜならゴールのウシュアイアまでどれだけ日数がかかるか分からないからだ。しかし、僕は時早くフライトのチケットを手にしていた。その理由は、ニュージーランドで一緒に働いていたイタリア人の友達が3月末まで日本に遊びに来ているから会えないか?と、アウストラル街道を走っている頃に連絡が来た。僕のペースで3月末に帰国するにはギリギリの日程で、どこかの町に連泊することなく真面目に走り続けなければならない。パタゴニアを自転車で走ることはこの先もう無いだろうから、時間を気にせず自分の足でゴールまでたどり着きたい。一方、大切な友達だから、せっかくの再会の機会も逃したくない。自分の旅か、友情か。悩んだ挙句、僕は友情を優先することにした。フライトは前回見た時よりどんどん値上がりしていたので、オイギンス村に着いた時点で購入。帰国は予定していたスケジュールより1週間早い日付になった。スケジュールを組み直した所、急いでこがなくても、休息日は作りつつ、フライトまでに自走ゴールが可能と分かる。しかしエル・チャルテンで朝焼け待ち、さらに貰った酒で3日酔いでベッドに沈没。まずここで予定が3日遅れ、早くも暗雲が立ち込める。

(1枚目 エル・カラファテのロゴマークは、シンボルの氷河・カラファテの木・南十字星 2枚目 クラフトマーケットの通りで可愛らしい焼き物発見。パステルカラーのバフンウニみたいなシェイプ、1コ千円お買い上げ。 3枚目 NZカップルのアンドリュー・エイリーンとはカラファテでお別れ。NZはまた行きたい国だからきっと再会出来るだろう。)

さて、南部パタゴニアの観光地と言えばEl Calafate(エル・カラファテ)のペリト・モレノ氷河と、Puerto Natares(プエルト・ナタレス)を拠点とするパイネ国立公園のトレッキングが有名だ。しかしこの2つ、入場料が年々値上がりしている(両場所、バス代・入場料で6千円程かかる)。トレッキングはエル・チャルテンで大満足したし、氷河もそこまで心惹かれるものでも無く、節約にもなるのでどちらも無視するつもりだった。しかし、それぞれの拠点の町に着くやいなや興味が沸き出て、挙句「行かなかったら後悔するんやないか・・」というあけすけな欲望が頭の中を巡り出し、結局は両方共行くことに。

(パイネトレッキングの拠点となるプエルト・ナタレスは漁師町でもあり、港沿いに建つ木造のお家とか、鄙びた感じとか漂うブルース感とかたまらんよね。中山うりの「マドロス横丁」歌いたくなりました。 最後の写真 パタゴニアで美味しいコーヒーにありつけるのは難しい。その中で、ナタレスの "Holaste! Speciality Coffee" は使ってる豆も、バリスタの腕も良く、クオリティが非常に高い。ここで飲ませてもらったペルー豆のHARIOドリップ飲んだ時、思わず「旨っ!」って叫んでしまった。美味しいコーヒーは人を幸せにする。以前はバスターミナルで屋台形式でやっていたけど、最近店舗を持ったらしい、コーヒー好きは行くべし。)

しかし氷河もパイネも、行ってみての満足度は決して高くなかった。あの巨大な氷河は確かにエスペシャルだけど、やはり値段が高過ぎる。パイネはシンボルの山を見るための日帰りトレッキングだけだったが、フィッツ・ロイの風景とほぼ同じものだったのでわざわざ来る必要も無かったと感じた。長期の貧乏旅行者はコスパが悪いと満足出来ないんです。阿保なこと言ってることは承知だ、しかし行かなければ別の後悔が待ってることも、またありうる。パイネトレッキングの後には風邪を引き、また延泊。とうとう自走でのゴールは実質不可能となり、カラファテからプエルト・ナタレス。さらにナタレスからプンタ・アレーナスまでの計500kmを泣く泣くバスで飛ばすことになったのだ。その間の道は相変わらずの何も無い大地続き。景色はずっと同じで、特別面白い訳ではない。強風や寝床探しにも苦労することだろう。でもその苦労を味わえなかったこと、全て自分で走り切れなかったことは、今でも少し心残りがある。

(ブウブウ言いながらもペリト・モレノ氷河のスケール感はやはり凄い。この厳しい自然の中を大きな羽を広げて優雅に空駆けるコンドル達。彼らに恐れという感情は無いのだろうか?私もそうでありたいものだが。)

ところで、氷河行きのバスターミナルで、さらにパイネの山中で、再びロシア人のガイラとアンドリューとばったり。お互い「またかよ。」という顔で再会を喜び合う。氷河の遊歩道を歩きながら、僕たちはお互いのこれまでの人生について話し合っていたのだけど、僕は自分のことを話した際、なんて情けない中途半端な生き方をしてきたのだろうと、真剣に恥ずかしくなったのだ。旅も仕事もいつもやりたいことにチャレンジしてきた。しかし、中途半端な立場・期間で一貫性も無いため、未だ僕は「これで生きている」という肩書は無い。誰かに自慢したり、尊敬されるために人は生きているのでは無いのに、これまでの自分の歩みをひどく後悔する自分がいた。あの時、もっと踏ん張っていれば。あの時、あの道に進んでいれば。旅が終わったらどうやって生きていこう?何をして食べていける?僕のようなスキルも脳も足りない人間など誰にも必要とされないのじゃないか?これまで劣等感として持っていた感情が、悲壮感となって頭をグルグル巡り出した。それからは自分に自信が無くなり、気が付けばそのことを考え、ため息をつくばかり。まさか旅の終わりにこんな感情を抱くなんて思ってもみなかった。でも見方によっては、いくらでもポジティブに考えることは出来るのだ。これまで歩んできた道のりは決して無駄じゃないし、自転車旅だって数値に現れることが全てでは無く、僕はここまで物凄く豊かな経験をしてきたのだ。完璧な旅も人生も存在しなければ、かえって完璧でない方がいいことだってある。でもこの時はそんな考えには全く及ばなかったけどね。

(もちろんパイネだって景色は素晴らしいんです!パイネは世界中のハイカーの憧れの地。数日かけて歩くWコース・Oコースは4カ月前からキャンプ場の予約が必要。道中にはレストランや売店もあるらしいけど、キャンプ場も含めてそれぞれのお値段は目の玉が飛び出る程高いそうだ。もちろんパイネにしか無い風景もあろうけど、もっと安く歩けてかつ大自然を感じられるトレッキングコースは世界にもっとたくさんあると思うし、今回は日帰りコースで十分と感じました。)

バスは南米大陸最南端のPunta Arenasプンタ・アレナスに着く。しかしここはゴールでは無い。僕にはまだラストステージが残されている。それはフエゴ島。その先のウシュアイアこそが僕が目指す、2年間の旅の最後の目的地。人生の大事な時期を、僕はずっと旅に捧げてきた。ここだけは何としても走り切り、一つの節目に華を添えよやないですか。


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