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何がために旅をする? "For what traveling?"


午前8時、プンタ・アレナスの港に立つ。ラスト・ステージのフエゴ島へ向かうフェリーの中は驚く程多くの人で賑わっていた。何が可笑しいかって、何百人といる乗客の中、同じソファーに座った4人。お互い素性を知らずに適当に座った席で、話しかけてみたら皆フエゴ島を走るサイクリストだったのだ。自転車の引力半端ないな。

2時間の船旅を終えて島へ上陸。晴れているけど空気はキーンと冷たい。こんな寒くて、風吹き荒れる所でキャンプしたくないなあ・・と不安になりながらも、ゴールのウシュアイアまで430km、ここは何としても走り切って気持ちよく旅を締めくくりたい。気合を入れなおして、いざ行かん!

港からすぐの町Porvenir(ポルベニール)を抜ける時に、5匹くらいの犬に追いかけられた。犬ってのはだいたい人の住んでる所にしかいなくて(理由は食べ物が無いから)、そもそも人の少ないパタゴニアでは追いかけられることさえ稀なので久々のことだった。ペルーで散々追っかけられ慣れしていたから、適当に無視してやり過ごす。

フエゴ島の最初180kmは未舗装路が続くよう。最初は風向きの悪さに苦しんだものの、東向きに変わってからは追い風に押され、オフロードもなめらかで流れが良い。緩やかなアップダウンとワイディングロードの向こうに群青の大海原が見え隠れして、ほほお、これはなかなか良い景色。グアナコが僕を見つけると、大きな体とは裏腹に華麗なジャンプで有刺鉄線の柵を飛び越える様は、何か幻を見ているかのような気分になる。人が住むには厳しい土地、何もない荒野の風景がゆっくりとしたペースで視界を流れていく。

「いやあ、楽しいなあ・・。」

そう、僕は楽しくて自転車旅をしていたはずなのに、いつからか頭には煩悩ばかりで、一番大切なことを忘れていた。楽しまないで何しに来てるんやって。

追い風のおかげで、オフロードにも関わらず110kmを走り、今日の目的地であるOnaicin(オナイシン)の避難小屋に到着。サイクリストは皆この場所を目指してくるのだけど、僕も含めて8人も集まるのだからビックリだ。寒くて風の強い場所に、この小屋の存在は本当に有難い。狭い中に皆マットと寝袋を寄せ合い、強風に細かくきしぶ扉の音を聞きながら一夜を過ごした。

さて、ウシュアイアを目指すには、オナイシンからさらに東へ進み、国境を越えてRio Grande(リオグランデ)を経由するのが一般的。しかし今回集まったサイクリスト達は猛者揃いで、僕以外全員がオナイシンから南に向かい、マイナーでオフロードだけど車は少なく景色も良い"Bike Packing Route"を進むみたい。少しそそられたけど、フライトまで時間がギリギリなのでメジャーなルートを選ぶことに。メジャーと言っても今回のメンバーの中では圧倒的マイナーになってしまったのだが。

朝こそグズグズしていた空も次第に晴れていき、深呼吸したくなる気持ちよさ。道は相変わらずスムースで穏やかな追い風が吹いている。お腹が減ったら道の脇でサンドイッチとラーメンで昼食。うむ、最高ではないか。やがてチリの国境にやって来た。後々バスで戻ってくる予定だけど、今回の旅でチリを走るのはここで終わり。なかなかこの国は楽しかった。パタゴニア北部のオソルノ山周辺、楽ではなかったけど何処もかしこも美しいアウストラル街道、別の惑星にいるようなアンデスのラウカ国立公園、木漏れ日のサンティアゴ、シーフードと美しい海のビーニャ・デル・マル。そして人情深いチリ人たち、美味しいエンパナーダ。景色も文化も、懐の深い国だ。今回攻略出来なかったラウカやアンデスの峠も含めて、きっとまたいつか。

数km先のアルゼンチン先の国境施設で入国スタンプを貰うと、ゲート横の待合室は旅人なら一晩無料で泊まることが出来る(職員の方に一声かけておくとお互い気持ちよいかと思われます)。暖房は効いてるし、シャワーも浴びれて、コンロまで使わせてくれた。オナイシンの避難小屋にせよ、有難さが身に沁みます。

3日目、国境の待合室を出る。進路は東南の方角に向かうが、なぜだか今日は向かい風。せっかく道は舗装路になったというのにまるでスピードが上がらない。おまけに冷たい雨まで振り出し、国境を越えてからは交通量が一気に増え、そのほとんどが大型のトラックで勢い良く横を通られる度に巻き込むような風が吹くため非常に恐い。この日の最後は、雨の寒さと低血糖で意識が朦朧とする中、なんとかRio Grande(リオ・グランデ)にたどり着いた。これでウシュアイアまでの道のりは半分を越えた、フィナーレは刻々と近づいている。

(3枚目 アルゼンチン側の警察?か何かの施設で雨宿りさせてもらう。暖かいコーヒーをいただいて物凄く安らいだ。しかしオフィスの人たちはテレビばかり見ていたけど仕事暇なのだろうか。 4枚目 リオ・グランデの宿で自炊。アルゼンチンビーフは安くて美味しいので食える時に食っておくべし!久々にネットの速度が速かったのでYouTube)


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